004 チュートリアル②

 此処からは、武器を各種装備した状態での戦闘を試して行く。

 ラグナロクRagnarφkでは、現実世界にて身体を動かす事が苦手な運動音痴の人でも、キャラクターステータスによる感覚補正が加わるので身体能力が底上げされる。

 初心者でも、戦闘のイメージが明確であり、キャラクターのステータスと自分のイメージがシンクロすれば、ラグナロクRagnarφk世界で初めて行う動きだろうが、即、実行出来るのだ。

 更に、武器使用経験者や、格闘技経験者ならば、より明確に、より正確に動く事が出来る。


「先ずは、どれから試そうかな?」


 僕の職業は魔法使いになるので装備が出来る武器は、ナイフ、小手、杖、弓の四種類のみ。

 ナイフ、小手、杖は近接戦闘となり、弓は遠隔戦闘となる。


「それなら、ナイフから順番に試してみるか」


 先ずは、ナイフから試してみる。

 ナイフは刃長25cm位のボウイナイフタイプで、相手を切る事は出来るが、投擲には向かない狩猟用のナイフである。


「ちゃんとした持ち方も知らないんだけど...」


 戦闘については、攻撃モーションが決まっているわけでは無いので、現実世界と同じように、自由に攻撃が出来る。

 ただ、ナイフを持った状態で我武者羅に攻撃をしたところで意味は無い。

 攻撃の仕方によって、相手に与えるダメージが変わってしまう為だ。

 切りつける攻撃にしても、ナイフの持ち方や切り方によってダメージが全然違った。


「何だか...デタラメって感じだな」


 それに、攻撃する場所によっては、そもそもが切れなかったり、攻撃が弾かれたりと、ナイフを持っている手に反動が来て自滅する。

 此処ら辺はかなりシビアで、現実世界と同じである。

 但し、魂位が上がり、キャラクターのステータスが上昇すれば、感覚や筋力に補正がかかり、ナイフでも腕や足、首など硬い部分でも、その骨ごと切る事が出来るようになる。


「やっぱり、ナイフは扱いが難しいな...でも、心臓か、頭に刺せれば一撃で倒せるみたいだ」


 ゴブリンや、他の魔物にも、人間と同様に心臓や脳があり、そこを攻撃出来れば一撃で倒せる。

 だが、一部において、心臓や脳とは別に、核と呼ばれる器官が存在している精霊種や幻想種がいたり、BOSSと設定されている敵がいたりと例外もあるのだが。


「じゃあ、次は小手を試してみるか」


 次は、バトルフィールドの外で装備を小手に変更したところで戦闘へと入る。

 小手は革と鉄で出来ており、拳の部分、前腕の骨に添うように、その中心部に鉄が入っているガントレットタイプだ。

 使いこなせれば、武器にも防具にもなる、攻防一体型の装備。


「手を覆う武器って、何で、こう格好良いのかな?」


 ニヤけながら思わず出てしまった独り言。

 「我が右手に眠る力!」とか言って敵を倒してみたいよ。

 こう装備を変えただけで強くなった気分を味わえるのだから不思議だ。

 実際はそんな事無いと言うのに。


「よし!これでバッチリかな!」


 僕はガントレットを装着した状態で、先ずは両手の拳を握り、右手で頭を。左手で腹部をガード出来るように構えた。

 そして、左足を前に出し、肩幅と同じくらいの歩幅で足を広げ、直ぐに行動へと移せるように膝は軽く曲た状態で、右足の踵を少し浮かせた。

 見様見真似だが、ボクサーのように構えて。

 軽く前後にステップを踏んで、体勢の窮屈さ、動きの出だしを調整して行く。


「じゃあ、早速戦ってみるか」


 拳を構えたまま、ゴブリンに向かってステップを踏みながら前進して行く。

 そして、左手でジャブを放ち、右手でストレートを放つ。

 これは、ワンツーと呼ばれる攻撃だ。

 その初めての攻撃は、綺麗にゴブリンの顔面を捉えた。

 見事に相手を吹き飛ばす事に成功した。


「動きは...まあまあ、かな?でも、狙った所は殴れてないし...反撃もされているのか...うん。接近戦は練習あるのみだな」


 身体の動きとイメージにズレがあった。

 そのズレを、僕の理想通りのイメージに近づけるよう反復して埋めて行くしか無い。

 そこから何回か攻撃を試したところ、ガントレットも当たる場所によっては相手に致命傷を与えたり、もしくは自身の拳を痛めるだけの結果となった。

 人型の魔物なら、人間と同じように顎を撃ち抜けばノックアウトが出来るし、心臓辺りに強い衝撃を与える事が出来れば、相手の動きを一時的に止める事も出来た。

 ハートブレイクショットってやつかな?

 ただ、攻撃の瞬間。

 自身の拳の握りが甘かったり、相手の骨の硬い部分や肘などを殴ってしまうと、小手の拳周りの鉄の部分が反発して、自身の拳を痛めてしまった。


「こんな...ところかな?よし!じゃあ、次は杖を試してみようかな」


 一度フィールドの外に出て小手を外し、杖へと装備を変更する。

 杖は、木製の長さ100cm位のロッドタイプ。

 攻撃方法は、叩く、払う、突くの三種類となる。

 杖を使いこなすのは難しいが、扱いを極めると接近戦も難なく対応出来る代物だ。

 ただ、扱う者は、ほぼ魔法職であり、戦闘では後方支援が基本なので、杖の扱いを極める人はそんなにいないのだろうけど。


「ふぅっ。杖は、使い方のイメージが全く出来無いんだよな。指南書とかあれば、解るんだろうけど...まあ、最初だし、試す位にしておくか」


 取り敢えず、持っている杖でゴブリンを思い切り叩いてみる。


「ダメージは、小手で殴った時と同じ位かな?じゃあ、次は...」


 相手の攻撃を躱しながら懐へと侵入し、杖でゴブリンの足下を払う。

 ゴブリンを転倒させると、そのまま頭を思い切り叩いてダメージを与えた後、追い打ちで鼻を鋭く突いた。


「おお!何だか、上手くスムーズに出来た気がする!今みたいに、連続で攻撃が出来れば倒せるな!」


 初めての杖装備だと言うのに、攻撃をスムーズに繋げる事が出来て、僕はじんわりと嬉しくなった。

 ただ、今以上に上手な杖の扱い方が僕には思い付かない為、早々に切り上げる事にする。

 今度は、バトルフィールドから出て、杖から弓へと装備を切り替えて行く。

 弓は単弓と呼ばれる物で、全長90cm程の木製の弓である。


「次は、弓だな。これならβ版で使用した事あるし、僕が上位職に就くまでのメイン武器になりそうだ」


 戦闘スタイルとしては、魔法弓術士と呼ばれる遠距離型。

 β版では短い期間の中、主に魔法メインで戦闘していたので、武器での戦闘をあまり経験する事が出来なかった。

 その武器に関しては、ただ、何となくで弓を使用していた程度でしか無い。


「本当は、剣でバッサバサと敵を斬り倒したかったけど、僕はどうしても魔法をメインにしたかったからな...魔法も使えて、近接戦闘で剣で斬り伏せる!この先が楽しみで仕方ないよ!」


 バトルフィールドに再度侵入すると、黒い粒子が集まりそこからゴブリンが現れる。

 敵の出現と共に、先制攻撃で弓矢をゴブリンの頭目掛けて放つ。

 β版で、弓を使用していた事もあり、放った矢が僕のイメージ通りに軌道を描いた。

 すると、見事にゴブリンの頭を撃ち抜いた。


「単弓の性能で、これだけ出来れば、かなり上出来だろうな」


 今装備している単弓は、木材で簡易に作られた物で、素材強度が低い装備。

 頑張って飛ばすだけなら、最大射程距離50m行けば良い方で、逆に力を入れ過ぎると弓の方が耐えられず壊れてしまう。

 装備にファンタジー要素の魔法が加われば話は別になるが、精度的にも10m先の獲物に当たれば達人級の腕前であり、50m先をピンポイントに狙う事など不可能に近いのだ。


「これで一通り試せたのかな?どれも、もう少し練習が必要だけど、直ぐには上手く出来そうに無いな」


 そうして一通り武器の使用を試し、思い通りに身体を動かした僕は、チュートリアルを終了すべくバトルフィールドの外へ出る。

 この無限に広がる空間にはゲートと呼ばれる扉があり、その扉を潜るとチュートリアルが終了する形だ。

 これからラグナロクRagnarφkを心底楽しむ為にも、自分の思い描いた英雄になる為にも、ラグナロクRagnarφkで最強になる事が僕の目標である。

 ラグナロクRagnarφkはファンタジー世界で有り、魔法やスキルは有るが、現実と同様に努力しなければ強くなれない。

 スキル補正で感覚の上昇はあるが、能力を使いこなせないと資格があるだけの状態と同じである。

 最強を目指す為にも、使用出来るものは全て使いこなし、全部の項目においてNO.1になる事が僕の目標だ。


「ここからは魔法だけじゃなく、武器での戦闘も頑張って行くぞ!」


 そうしてチュートリアルルームに設置してあるゲートを抜けて行く。

 一瞬、身体が無重力空間にいるような浮いた感じがした。

 ゲートを一歩跨ぐと同時に、目の前の場所が切り替わり、部屋(空間)を移動していた。



 ゲートを抜けた先の移動先は、10m四方の空間へと移った。

 そこは会議室のような、部屋の中央には椅子が数席付属したテーブルが置かれていた。

 室内に設置してある調度品は、全部が木材で出来ており、品質も平均的な物で特にボロい訳でも無さそうだ。

 どうやら此処が、僕達の活動の拠点になるらしい。

 他に部屋が四つ付いた一階建ての平家。

 ディスプレイ上部に、拠点ポイントなるものが表示されているので、そのポイントを使用して「拠点の拡張が出来るんだろうな?」と考えた。

 後で詳しく調べてみよう。


(あ、アルヴィトルだ...やはり、ものすごく綺麗な人だな)


 僕の目の前には、アルヴィトルが待機していた。

 アルヴィトルはNPC(Non Player Character)であり、ゲームの進行を手伝ってくれるサポートキャラだ。

 プレイヤーの好みで、それぞれの造形を弄る事が出来て、成長も変化して行く自立成長型の僕専用のサポーターだ。

 他の部屋に移動しようとするが、扉には鍵が掛かっている為、開かない。

 どうやら、アルヴィトルに話し掛けないと先に進めないみたいだ。

 僕はアルヴィトルに話し掛けた。


「ルシフェル様、お待ちしておりました。この世界の事はご存知ですか?」


[YES/NO]


(ええっと、何も解らないから)


[NO]


「この世界、ユグドラシルの勢力は、秩序を守る私達神族側と、混沌を起こす悪魔側に分かれています。主神、オーディン様が仰っていた“ラグナロク”とは、神族側と悪魔側の最終決戦の事を示しております。その為、終末の日、ラグナロクに向けて、悪魔側の勢力を少しでも排除しなければなりません」


 史実では、アース神族と巨人の戦いだった。

 巨人=悪魔の説があるから、そういう設定なのかな?


「解り易い指標として、勢力の優劣を示す、“ワールドカルマ”がございます。先ずは、そちらの天秤を御覧下さいませ。聖(秩序側)と闇(混沌側に)に分かれております。こちらの天秤は、現在、優勢な勢力側へと傾きます」


 随分、豪華な装飾の天秤だ。

 この部屋の格式と比べると、明らかに勿体無い代物。

 ただ、その天秤からは、物凄く神秘的な力を感じる。


「勢力を排除する方法としては、大元の悪魔を倒すか、ワールドカルマを聖(秩序側)にする事が、悪魔側の弱体化に繋がります。ただ、悪魔を倒す事は現状難しい為、ワールドカルマを聖側(秩序側)へと持って行きたいと思います。争いなどの負の感情が、ワールドカルマの闇側(混沌側)を増幅しますので、人間同士で争い、世界の混沌を起こしている場合では無いのです。その為、これからルシフェル様には、人間が住む世界ミズガルズを統一して頂きます」


 成る程。

 出だしとしては、ありきたりだけど、とても解り易いね。

 オープンワールドと言えど、いきなりラグナロクまで丸投げされても困ってしまうからね。

 行動目的があれば、その指針に沿って動けるのだから。


「人間の勢力は、大まかに三つの勢力に分類されます。天空皇ユーピテルが統べるジュピター皇国。海皇ネプチューンが統べる魔獣諸国連邦ポセイドン。冥府皇プルートが統べるハデス帝国。この三大国家が争い合う事で、混沌を起こしております」


 アルヴィトルの話通りなら、ミズガルズ世界は、ギリシャ神話がベースのストーリー。


「最も厄介な、ジュピター皇国は後回しにして、先に攻略をする国を、魔獣諸国連邦ポセイドンか、ハデス帝国の、どちらかに致しましょう」


[魔獣諸国連邦ポセイドン/ハデス帝国]


 これは、どちらから攻略するのが良いのだろうか?

 まあ、序盤なので、どちらでも良さそうだけど。

 じゃあ...


[魔獣諸国連邦ポセイドン]


「かしこまりました。それでは準備致します。準備が出来るまで、少々お時間が掛かりますのでお待ち下さいませ」


 メインストーリーはこんな感じなのか。

 でも...

 ようやくこれで、自由にまた動く事が出来る!!

 ああ、楽しみだな!!

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