002 ラグナロクRagnarφk
『ラグナロクRagnarφk』
IMMORPG(Immersive Massively Multiplayer Online Role-Playing Game、イマーシブ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)とは「没入型大規模多人数同時参加型オンラインRPG」の事だ。
専用コンソールを使用して背中から直接身体にコネクトする事で、データを脳へと直接送る事が出来る。
その為、現実世界での感覚を、仮想現実の世界で再現する事が出来るのだ。
軍事利用、医療の発展から始まり、人の欲望を満たす物として発展した技術なのだと。
世界中の国が、世界中の企業が、我こそはと、何年も競い合い研鑚した結果。
コストダウンをする事に成功し、一般家庭まで流通するようになった。
何故なら、人の探究心や欲望と言ったものが尽きる事は無いからだ。
今までは、戦闘メインのMMORPGが主流だったが、ラグナロクRagnarφkが現れてからは、その価値観がおおいに変わってしまった。
現実世界の感覚や体感を、擬似世界で存分に堪能する事が出来るのだから当然の結果だろう。
今後の主流となるべく、更に進化したIMMORPGなのだから。
このラグナロクRagnarφkは“ユグドラシル”を舞台に、アースガルズ、ヴァナヘイム、ミズガルズ、ムスペルヘイム、ニブルヘイム、アルフヘイム、スヴァルトアルフヘイム、ニタヴェリール、ヨトゥンヘイム、この九つの世界が存在していた。
選択出来る人種は、人間。
猫人や犬人などの亜人種。
サラマンダーやシルフなどの精霊種。
スライムやゴブリンなどの幻想種。
天使や悪魔など、合わせて500種類以上と様々だ。
そのグラフィックに関しても、別売りのクリエイトツールを使用すれば、もっと細かく調整が出来ると言うもの。
変な話、労力さえ払えば、種族は魔物だが、見た目は人間と言う事も出来てしまうのだ。
職業に関しても、戦士や武闘家の戦闘職系。
魔法使いや僧侶の魔法職系。
薬師や鍛治師の支援職系。
農民や商人の生活職系など、合わせて1,000職以上存在している。
ラグナロクRagnarφkでは、種族や職業にそれぞれ魂位(レベル)が定められていた。
魂位は最大で10までだが、他の職業と併用が出来る。
今のところ併用出来る職業の数は限定されているが、様々な職業に就く事により、自分だけのオリジナルキャラクターが作成出来るのだ。
やりこめばやりこむ程、強くなると言う訳だ。
ゲームの楽しみ方は、人それぞれだろう。
冒険者として、魔物を倒して経験値や技や魔法の熟練度を上げたり、お金やドロップアイテムを手に入れて遊んだり、生産系のプレイヤーとして薬やアイテム、武器などの物作りをしたり、デザイナーとしてキャラや武器のグラフィックを変更したり、やり込み要素はプレイヤーによって無限大なのだ。
そして、いよいよ今日。
ラグナロクRagnarφkの正式サービスがオープンする日。
サービス開始前のβテスト版で、ゲームの世界観にのめり込んだ。
今日、正式サービスがオープンする日を僕はずっと待ち侘びていたのだ。
βテスト版では、残念ながらキャラクターメイキングや行動に制限があり、プレイヤーに出来る事が限定されていた。
だが、そんな事は正式サービスがオープンした時。
他者よりも優位に立てる事を考えれば、やらない訳が無かった。
それに特典ボーナスもあるので、尚更だ。
画面が切り替わり、5m四方の何も無い空間へと移動した。
中央には、青白い炎のような揺らめきが浮かんでいる。
この炎は、オープニングで流れたエインヘリャルと同一で、どうやら英霊の魂のようだ。
成る程。
この魂が、僕らしい。
「あなたのお名前を、教え下さい」
ふと、機械じみた音声が鳴り響いた。
名前か...
あまり考え過ぎても良くないし、拘り過ぎてもダサくなりそうだよな。
パッと思い付くのは、キュロスニ世、アレクサンドロス、カエサル、嬴政(始皇帝)、チンギス・ハン...信長?
あれっ?
どれも、現実世界で活躍した既存の英雄ばかりだ。
「うーん。こういうの苦手なんだよな」
僕は、自分のネーミングセンスの無さを自覚している。
その為、名付けをする際はどうしても悩んでしまうもの。
既存の英雄の名前は使い易いけど、その英雄と比べられても困ってしまう為だ。
「...だけど、一番好きなのは、ルシフェルなんだよね」
僕は結局、散々悩んだ挙句。
その名前の英雄と比べられたとしても、自分の好きなもので行く事を決めた。
“ルシフェル”と入力。
「それでは、性別をお決め下さい」
ディスプレイに選択肢が表示された。
[男性/女性]
僕は、[男性]を選択する。
「では、次に、種族を選択して下さい」
先程と同じように、ディスプレイには様々な種族が映し出された。
だが、選択出来るものは、基本種族と呼ばれるものだけである。
横にスクロールしながら、種族を変更して行く。
すると、表示されるグラフィックと共に、移動モーションや、攻撃時のモーションなどが映し出されて行く。
「おお!どれも格好良いな!...えーっと...あった。これだ!ルシフェルだから天使!これなら空を自由に飛べるし、なんと言っても翼が格好良いよね」
僕は、天使族を選択した。
すると、魂だけの存在だった僕から光が溢れ、徐々に肉体が形成されて変身をして行く。
見た目は人間と変わらないのに、背中には白い翼が生えていた。
勿論、デフォルトの状態なのだが、彫刻のように顔が整っている。
初期設定で十分に格好良い。
ちなみに、この段階で顔の輪郭や体型も調整出来る。
その為、僕は最初に時間を掛けてでもそれらを弄る事にした。
ゲームが始まれば、専用の場所でいつでも変更出来るのだが、面倒な事は後回しにしない主義だ。
「ルシフェルは堕天しちゃうけど、もともとは天界の長だし、最強格の一人だから、それに相応しい見た目にしないとね」
様々な文献、絵、モデルを参考にバランスを整えて行き、黄金比を取り入れて調整を行う。
顔、骨格、肉体、手足の長さ、その一つ一つを丁寧に調整しながらだ。
此処で、かなりの時間を浪費しているが、僕は時間を惜しまずに、完璧に仕上げて行く。
最後に、全体のバランスを整えればメイキングの終了だ。
「...出来た!これで完璧!!」
時間はかなり掛かったが、僕の満足の行くキャラクターが出来上がった。
その名前に相応しい姿を嚙締め、次の項目へと進んで行く。
「それでは、職業を選択して下さい」
種族選択時と同じように、ディスプレイに様々な職業が映し出された。
こちらも、やはり基本職業からの選択となる。
指でスクロールして行くと、スキルモーションや、魔法モーションが発動して行く。
種族も、職業も、どちらもだけど、このモーションを見ているだけで、軽く一日は潰せそうだ。
「やはり、ファンタジーなら、魔法でしょ!」
誰しもが経験あるとは思うが、成長期の最中(さなか)。
他人には無い自分だけの固有能力が覚醒する事を夢見た事だろう。
テレビや映画のヒーローに憧れたり、アニメやライトノベルに影響を受け、純粋に自身の身体能力が、魔法や超能力が目覚め無双する事をだ。
俗に言う厨二病だ。
まあ、そんな僕は真っ只中なんだけどね。
その事に恥ずかしさは一切待ち合わせていない。
僕はスクロールを動かして行き、夢の世界を現実にするような気持ちで魔法使いを選択した。
「では、王の間へと送ります」
職業の選択が終われば、光の粒子が輝き、その光と共に転移を始めた。
移動した先は天井が高く、黄金で出来ている広場だ。
室内は、黄金がベースにされているが、下品さを全く感じず、その神聖さが神々しい。
天井には、クリスタルで出来たシャンデリアに、ルビーやサファイア、エメラルドなど、七色の宝石が豪華に装飾されていて、幻想的な輝きを放っていた。
地面、一面には、真紅を基調とした金の刺繍が細かく施されている絨毯が敷かれていた。
周りには、黄金に負けない最高級品質の装飾品や、価値が付けられないような芸術的な品物が多く飾ってある。
(こんな凄い住まいが...城があるんだな...わあ!...どれも高そうな物ばかり)
思い描いていた玉座の間よりも、数倍凄い事を感じ、自分の感性の乏しさを思い知った。
左右には神族、ヴァルキリー、天使、精霊、聖騎士などが一糸乱れず直立不動で並んで居た。
その階段を登った中央奥には槍が飾ってあり、玉座には神格を感じる人物が座って居た。
此処からでは、ハッキリと見える訳では無いが、玉座の裏に飾っている槍は、きっと主神が愛用する神話級の武器“グングニル”だろう。
(神槍グングニル...僕も、いずれああ言った武器が欲しいな)
そして、神格を感じる人物こそ、ユグドラシルの主神“オーディン”だ。
ウェーブがかった白髪に、自身の身の丈の半分程ある白く特徴的な長い髭。
右目は眼帯で隠されているが、左目に映し出している灼熱を凝縮されたように燃え上がる真紅の瞳が、王者の輝きを宿していた。
年齢を重ねて、自然と出来上がる皺が、目元や口角に現れているが、顔立ちや立ち振る舞いから圧倒的な威圧感を放っている。
(主神オーディン...やはり、凄い雰囲気を醸し出しているんだね。オーラと言うのか...?威圧感と言うのか...?何だろう?僕には解らないや)
身に纏う数々の装飾品、身を守る鎧、そのどちらも黄金で出来ており、その人物を際立たせていた。
玉座の両脇には二羽のカラスが、足元には二匹の狼が居た。
そして、主神オーディンから言葉が放たれた。
「ようこそ、ユグドラシルへ。其方を呼び覚ましたのは、このワシじゃ」
脳に響いて来る、心地良い低音に聞き入ってしまう。
声、喋り方、間の取り方、どれも魅力的なものだ。
「この世界は、終末に向かっておる。ミーミルの首が“ラグナロク”が近いと、ワシにそう告げたのじゃ。ヴァン神族や、悪魔たちが何やら不穏な動きを見せておる。世界の秩序を守る我らアース神族と、混沌を持たらす奴らとの戦いは、避けられそうに無いのじゃ」
ミーミルの首?
確か、オーディンの相談役で賢者だったかな?
アース神族における宰相ってところか。
「ワシらには、共に戦う英雄が必要じゃ。其方には、人間の世界ミズガルズに赴き、ヴァルキュリヤと共に、エインヘリャルに相応しい人物を探して欲しいのじゃ。必要な物は、こちらで用意させよう」
ヴァルキュリヤ。
ヴァルキュリーの軍団と言う意味だ。
「其方には、ヴァルキュリー“アルヴィトル”を従ける。詳しい事は彼女に聞いてくれ」
僕の目の前に出て来たのは、青を基調に黄金で装飾された鎧を身に纏うヴァルキリーだ。
銀髪翠眼、小顔で雪のように透き通った肌に、薄い桜色の唇。
一つ一つのパーツのバランスが良く、目尻が少し吊り上っているがキツイ印象を与え無い、大変美しい顔立ちだ。
手足が長く、指の先まで整っていて、身に纏う鎧と合わせて完成された芸術のようだ。
「本日より、私、アルヴィトルが、ルシフェル様に付き従います。これからは、何なりとお申し付け下さいませ」
お供ってNPC(Non Player Character)?
ゲームのガイド的役割なのか?
それとも、戦闘に参加するのかな?
僕が、そう考えていると、再び光の粒子に包まれて行った。
「オーディンが命ずる。ルシフェルにアルヴィトルよ。この世界の秩序を守るのじゃ!」
光の粒子が収束して行く。
それは眩い程の光だ。
そして、周囲をその光で埋め尽くしてしまった。
僕達は、その輝きと共に、再び何処かへと転移した。
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