第29話 春の過去#1

 これは私こと、竹宮春の中学校の時の話。


「課題終わるまで部屋から出ちゃだめよ!」


 それがお母さんの口癖。


「私が小さい頃は全教科満点なんて当たり前だったぞ!」


 これは父さんの口癖。


 そんな厳しい二人の両親によって私は育てられた。


「ねぇ春ー今日の放課後遊べないー?」

「ごめんね。放課後は早く家に帰ってきなさいって言われてるから」


 友達に誘われても遊ぶことなんて一度もなかった。

 遊んだらどれだけ怒られるか。

 それを考えただけで遊ぶ気なんて失せた。


 そして中学一年生が終わり、二年生になった。

 クラス替えが行われたけど私にはそこまで関係ない。

 だって学校だけの付き合いだもの。


「なぁ、春ちゃんが遊ばないのって何で?」


 そんな時、一人の軽薄そうな男子に聞かれた。

 対して仲がよかった覚えがなかったので正直に答える気はなかった。


「家の用事だよ。ほら、みんなも結構あるでしょ?」

「けど春ちゃんは毎日のことじゃん。まあ言いたくないならいいけどね」


 話しかけてきたのは黒咲空というクラス替え直後でもすでに中心にいる顔がいいパリピだ。 

 そんなにいい印象はない。


「じゃあ言わなくていいね」


 そう言ったら黒咲はどっか行った。

 私の壁はまた弾いた。


 拒絶して、壁を作って、距離をとる。

 決して壁の内側、一番近いところには誰も入れない。

 入れても何もできないんだから。


 それなら最初から入れなければいい。

 これまでもこれからもそうなんだ。


 そして事件が起きた。

 私の全国模試の順位が悪かったのだ。


「何でこんな点数……」


 母はまるで憐れむかのような目を向けた。


「―――!!!」


 父は激しい剣幕で怒り出した。


 次の日、学校には行かなかった。

 というか行けなかった。


「学校なんかに行くからお前は馬鹿なやつに影響されてしまったんだ。だからもう行かなくていい。部屋で課題だけやってろ」


 先生が何度訪問しに来ても、何も変わらなかった。

 友達がきても追い返され、私はずっと家にいた。


 家で勉強、勉強、勉強。


 課題、勉強。


 それだけが私の日常。


 でもそんな日常に一縷の光が刺した。

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