第一章 黒髪転校生 7

「……と、いうことらしいんだよ」

 約束の訪問時間から30分遅れでやってきた長二郎に、トオルは見せられた再現記憶の話をした。

「それで?」

「だから、裏山で交通事故に……」

「それで?」

「だから、それ以上のことは僕も知らないんだってば」

 理解してもらえないことに苛立ちを覚え、髪をかきむしるトオル。インターフォンを押しても応答しない敷常家に一抹の不安を感じ、勝手に上がり込んできた長二郎だったのだが……部屋にいた顔ぶれを見るなり、意味もなく不機嫌になってしまったのだ。

「どうして、わかってくれないんだよ」

 すると、長二郎が幼女クレアを指差した。

「そういうことじゃねぇ。俺が知りたいのは、なぜ、そのカワイイ幼女がおまえに懐いているのかを聞いているんだ。だいたいだなぁ、どうして、おまえんとこに幼女が来てるんだよ。来るなら、幼女をこよなく愛する俺んとこだろがよぉ!」

 一瞬だけ、勉強のできる親友をバカだと思った。

「RAINも電話にもでねぇから、なにかあったと心配して来てみりゃ、幼女とイチャついてたとはなぁ……見損なったぜ、トオル」

 なぜか、親友から軽蔑なまなざしを送られた。……と、そこへベッドの上でくつろいでいた保子莉が、長二郎の後頭部を小突いた。

「こらこら。わらわの存在を無視するでない」

「うっせぇなぁ。今、大事な話をしてるんだから邪魔すんな!」

「邪魔しておるのは、きさまのほうじゃろ!」

 保子莉のキツい蹴りが、長二郎の後頭部に炸裂した。

「まったく、これから説明をしようとしたところに、第三者が乱入してくるとは想定外じゃったわい」

 後頭部を押さえて床を転げ回る長二郎を見下ろしながら、幼女も困り果てていた。

「まったくですぅ。もう面倒なのでぇ、この人の記憶を消しちゃいましょうかぁ」

 涼しい顔をして恐ろしいことを平然と言ってのける幼女に、トオルは唖然とした。

 ――記憶を消すだって?

 もしそれが本当だとすれば、常軌を逸しているとしか言いようがない。

「しかし、丸一日記憶を消し飛ばしてしまうと、こやつだけわらわたちの記憶が抜け落ちてしまうことになるし、それはそれで明日から面倒なことになりはしないかのぉ」

「じゃあ、高熱を出してぇ学校を休んでいた。という記憶を上書きしてはどうでしょうかぁ?」

「おお。それは名案じゃのぉ」

 仮に長二郎本人は休んでいたから二人を知らないとしても、長二郎が学校に登校していた事実を知るクラスメートや担任の記憶はどうするつもりなのだろうか。

 ――まさか、こんないい加減な調子で僕の記憶をいじったのか?

 植え付けられた偽の記憶と見せられた事故の記憶。こうなるとどちらが本物の記憶か、わかったもんじゃない。

 とトオルが疑念を抱いていると、保子莉がベッドから降りて幼女に指示を出した。

「こやつの記憶操作はわらわがやっておくから、クレアはトオルに説明してやってくれ」

 そう言って、保子莉はスカートのポケットから赤い折りたたみ式の携帯電話を取りだすと、床でうずくまっている長二郎の胸元に足を置き、携帯電話を拳銃のような形に変形させた。

「すぐ終わるから、ジッとしておれよ」

 不敵な笑みを浮かべて銃を突きつける保子莉に、流石の長二郎も危険な人物だと感じたようだ。無理もない。なにしろ得体の知れない携帯電話を突きつけて、他人の記憶をどうにかしようというのだから、どう考えたって普通じゃないだろう。

「ちょ、ちょっと待て! 俺の記憶を消して、なんのメリットがあるってんだよ? そもそも俺がなにしたってんだよ?」

 必死になって乞う長二郎に、保子莉から殺気が消えた。

「ふむ。確かに、まだなにもしていない内から記憶を消すのも筋が通らん話じゃな。良かろう。きさまが今日のことを他言しないと約束できるのであれば、記憶を消さないでおいてやる」

 一時の猶予を与え、保子莉はベッドに這い戻ると、銃の先端をトオルに向けた。

「それと、ついでと言ってはなんじゃが、こやつに対する今後の話も聞いておくと良いじゃろ」

 その威圧的な物言いに、トオルはゴクリと固唾を飲んだ。



「……と、言うわけでぇ、当社といたしましてはぁ事故で傷ついたトオルさまのお体が完治するまでぇフルサポートさせて頂く次第でありますですぅ。以上が今回の保険適用となりますがぁ、おわかり頂けましたでしょうか?」

 なにもない空間に投影されたHUD(ヘッドアップディスプレイ)の規約内容を指し示しながらテキパキと説明する幼女。

『宇宙総合保険会社コスモ・ダイレクト。担当営業クレハ・クリス・クレア』

 もらった名刺から察するに、幼女の職業は宇宙の保険屋さんらしい。

 生まれて初めてお世話になる保険制度に、トオルは被害者の実感がないまま「はぁ」と相づちを打つだけだった。

「もしぃわからないことがありましたらぁ、後日ぅ、あらためてご説明いたしますですよぉ。続きましてぇ、今度はトオルさまのお体についてぇご説明させて頂きますですぅ」

「はい、よろしくお願いします」

 情けないと思いながらも、トオルは幼女に頭を下げた。きっとなにも知らない他人からすれば『天才幼児とお馬鹿な男子高校生』と思うに違いない。

「今しがた説明したとおりぃ、事故後の状況ですがぁ奇跡的に脳の損傷もなく頭部そのものが無傷でしたぁ。これは非常に幸運なことでしたよぉ」

 天使のようにニッコリ微笑むクレア。しかし頭部だけ無事だったとは、いったいどれだけ凄惨な事故だったのだろう。見せられた記憶と幼女の説明から察するに、首を境に頭と体が分断してしまったということなのだろうか。

「あのぉ、人は頭だけで生きてられるのですか?」

 小さく挙手をして非常識な質問をすると、事故の当事者が補足する。

「普通に考えれば即死じゃろう。しかし、わらわのところの爺が応急処置を施したので死なずに済んでおる。生命を維持するためのインプラント。つまり超圧縮心肺機器や血液増幅循環装置やらなんやらを、おぬしの首根っこに埋め込んで最低限の生命維持を保ち、そのまま保険会社に連絡を取って、駆けつけたクレアが適切な処理を施したというわけじゃ。それと事故当日の記憶を消したのは、おぬしの精神状態を考慮した上での判断じゃ。なにしろ、目を覚ました直後にショックで死なれては元の木阿弥じゃからのぉ」

 事故直後を良く知る当事者の説明。だが、おかしな点もある。もし彼女の証言が正しいとするならば、この体はいったいなんなのだろう。

「それにつきましてはぁこれからご説明いたしますですぅ。一時的ではありますがぁ当社が用意いたしましたぁ人工有機ボディ、つまり義体とトオルさまの頭部を借り接合してあります。なのでぇ一部の機能を除いてぇ、普段の生活するにはなんの支障もございませんですよぉ」

「ぎたい? つまり義手や義足のようなもの?」

「はい。そう理解してもらってかまいません」

 確かに、今日一日を振り返ってみれば、体も思いどおりに動いているし、それに感覚器官も正常だった。……とは言え、幼女の言葉の含みが気になるのだが。

「一部って、今日、川で泳いだみたいに、体が半魚人みたいになるってこと?」

「それはまた別の話ですねぇ。義体の変化はぁトオルさまの思考を元にぃ細胞構築をしたにすぎませんですからぁ」

 そうなると幼女の言うところの機能とは、いったいなんなのだろう。と疑問に思っていると、幼女が顔を赤らめて口ごもった。

「そのぉつまりですねぇ、私の言うところの機能とはぁ……生殖器のことでしてぇ、本来の機能が働かずぅ、現時点において子孫繁栄ができないということですぅ」

 その衝撃的な事実に、トオルは自分の股間と幼女の顔を見て絶句した。

「ウソでしょ?」

「元の体に戻れば大丈夫じゃから、案ずることはない。それとクレアよ。おぬしも肝心なことをハッキリ言わんでどうする」

「だってぇ、恥ずかしいじゃないですかぁ」

「良くそれで保険会社の仕事が勤まるのぉ。まぁ良いわ。つまらぬ事で口を挟んで悪かったな。話を続けてくれ」

 すると今まで沈黙を守り続けていた長二郎が、優しく幼女に問いかけた。

「ごめん。よく聞こえなかった。だからもう一度、君のかわいい口から教えてほしい。生殖器がどうしたって……ぐはっ!」

 見れば、保子莉の拳が長二郎の顔面に食い込んだ。

「痛ぇなっ! なにすんだよ!」

「やかましい! クレアがおとなしくしているのを良いことにセクハラするからじゃろ! それと、さっきから気になっておったのじゃが、なぜきさまはクレアを膝の上に乗せておるのじゃ?」

 すると長二郎は幼女を膝に抱っこしたまま鼻で笑った。

「愚問だな、保子莉。もちろんかわいいからに決まってんだろうが!」

 刹那、幼女は長二郎の膝から逃げ、入れ違いに保子莉の跳び蹴りが長二郎のみぞおちに入った。

「呼び捨てか? 今、わらわを呼び捨てにしおったな! しかも地球人の分際で!」

 腹部を抱えながら床でのたうち回る長二郎を幾度となく踏みつぶす保子莉。どうやら呼び捨てにされたことが、お気に召さなかったらしい。

 その手のつけようのない喧騒に、トオルは「もう気の済むまでやればいいさ」とふたりをほっといてクレアに今後のことを訊ねた。

「元の体に戻ったら、そのぉ……ちゃんと子供とか作れるようになるんだよね?」

「子孫繁栄の件ですか? その点はご心配ないですよぉ。生殖器官を含めてぇお体の6割以上が原形を保っているのでぇ、ちゃんと事故以前の状態に戻れますしぃ、遺伝子的にもぉまったく問題ないですからご安心くださいなぁ」

 懇切丁寧に回答してくれるあたりは、流石、宇宙の保険屋さんと言ったところだろうか。とりあえず半魚人に変化することなどを除けば問題なさそうだ。すると幼女は、トオルの組むあぐらの中にちょこんと腰を沈めて笑った。

「んふ♪ やっと信用してくれましたですねぇ」

「だってクレア先生が大丈夫って言うんだから、信じるしかないよ」

 こうなってしまった以上、保険屋さんである幼女を頼るしかないだろう。

「そう言ってくださるとぉ、わたしも安心して職務を遂行できますですよぉ。それとトオルさまぁ。今は先生じゃないんですからぁ、クレアと呼んでもらってもかまいませんですよぉ」

 保子莉とは違い、こちらは呼び捨て大歓迎のようだ。

「そういえば、どうして時雨さんとクレアは地球人と偽って僕たちの学校に来たの? 転校手続きや赴任手続きとかあったでしょ?」

 そもそも転校元となる学校や、副担任の経歴など存在しないはず。

「ちょこっとだけぇ、教育委員会への偽装書類やデータベースを改ざんしましたですよぉ。お嬢さまがどうしても地球の高校生活を体験してみたいとおっしゃるのでぇ、義体の監視を含めてぇ同じクラスにさせて頂きましたですぅ。ちなみに私の場合、この体型のままでは幼稚園児になってしまうのでぇ、大きくなってぇ先生をさせてもらった次第ですぅ」

 素性と事の成り行きがわかった今となっては、ほぼ想像通りの返答だった。

「ところでクレア。もう一つ質問があるんだけど、僕は時雨さんのような顧客でもないのに、どうして『さま』付けをしているの?」

 敬称をつけられる間柄でもなければ、立派な人間ではないのだが。

「なにを言ってるんですかぁ。お嬢さまは当社の顧客さまですしぃ、トオルさまはその被害者なんですからぁ、当然のことじゃないですかぁ」

「まぁ、クレアがそう言うならかまわないけど……ただ、ご主人様的に持ち上げられるのは慣れていないせいか、なんだかちょっと抵抗があるし、照れくさくって」

「トオルさまのそういう謙虚なところ、とってもいいと思いますですぅ。なんでしたらぉこのクレア、トオルさまの専属メイドになってもいいですよぉ」

 大人びた上目遣いをする幼女に、トオルは狼狽えた。

「いえ。け、結構です」

「そうですかぁ。私にとってトオルさまは命の恩人ですからぁ、ちょっと残念ですぅ」

 たぶん川で溺れかけていたことをいっているのだろう。その感謝の気持ちに、自殺を考えていた自分が愚かしく思えた。しかし、なぜ川で溺れていたのだろうか。するとクレアが瞳をキラキラさせながら、身振り手振りで話し始めた。

「この星のぉカワセミさんがぁとっても綺麗だったのでぇ、写真に収めようと近寄ったらぁ……」

「足を滑らせ、川に落ちた拍子に本来の姿に戻ってしまったのじゃ。って、こら、暴れるな!」

 長二郎にスリーパーホールドを決めながら、事の詳細を告げる保子莉。どうやら「ギブギブ!」と降参する長二郎の声は聞こえてないらしい。

「もぉ! お嬢さまったらぁ、余計なことを言わなくっていいんですよぉ」

 キッと顧客を睨むクレア。しかし幼女のままでは迫力もなく、子供の戯言にしか見えなかった。とはいえ、この子供がいなければ、今のトオルの存在どころか、元の体にすら戻れないのだ。

「そういえば、僕の体ってどうなってるの?」

 不意によぎった疑問に、幼女が短い人差し指を天井に突き上げた。

「地上から600キロ上空に駐留している宇宙船(スペースクルーザー)の中でぇ培養治療を続けて肉体再生をしてますですよぉ。船外からぁ太陽光を取り込んでぇ有機再生エネルギーを抽出変換してぇ細胞蒸着をおこなってますぅ。なのでぇ、二週間ほどで完全体ができあがりますですよぉ」

 宇宙技術用語を交えた医療説明に、理解が追いつかなかった。

「なんでしたらぁ、今からぉお体の進捗状況を見に行きますかぁ?」

 すると保子莉が長二郎を踏みにじりながら後押しをする。

「百聞は一見にしかずともいうしのぉ、気になるのならばそれも良かろう。なにしろおぬしの体じゃ、遠慮などせず見てくると良い」

 加害者意識の足りない他人事のような態度に、トオルは彼女の神経を疑いつつ、どうしたものかと卓上時計に目を向けた。

 午後8時28分。

 日付が変わるまで、あと三時間半ほど。同時に学校で出題された課題を思い出した。

 今から宇宙船に行って、のんきに体の治療を見学している場合ではない。しかも肝心なスクールバッグといえば、溺れるクレアを助けるため、河原に放置したままなのだ。靴はともかく、教科書がなければ課題どころか明日の授業もままならない。

 ――しかたない。自転車で取りに行くか

 田舎だけに電車の運行は限られているのだ。今から家を出ても、帰る頃には夜10時過ぎの終電にも間に合わないだろう。そうなると時間制限に縛られない自転車が頼りとなるのだが……それでも片道40分弱。往復となれば一時間半といった道のりだ。

 ――ぐずぐずしている場合じゃないな

「ごめんね。宇宙船に行くのは、また今度にするよ」

 トオルはあぐらの中でくつろいでいる幼女をどかして立ち上がった。

「どうしたのじゃ?」

「うん。河原に置いてきた靴とバッグを取りに行ってくるよ」

「おぬしの荷物ならば、持ってきておいたぞ。ほれ、そこにおいてあるじゃろ」

 言われてベッドの脇を見れば、飲み捨てられたペットボトルとくすみ汚れたコンビニ袋のゴミと一緒に、スクールバッグと靴が無造作に積まれていた。

「そうそう。それからトオルさまぁ。これもお返ししておきますですぅ」

 小さな手から差し出された自転車の鍵を受け取りながら、見せられた事故の記憶をまさぐった。確か、保子莉との接触事故で大破してしまったはずだけど。

「ええ。走行不能な全損でしたけどぉ、直しておきましたですよぉ。有機物の治癒再生と違ってぇ、無機物は簡単に再生できるんですよぉ」

 地球人には到底マネのできない技術をさらっと言ってのけるあたりが宇宙人らしい。

 とそこへ、長二郎が幼女の背中を優しく包み込んだ。

「そのかわいらしい君のお手々で、凶悪女子の暴行を受けて傷ついた俺の体を治療……っぐへ!」

 口説き文句が終わらないうちに、保子莉の回し蹴りが長二郎の顔面に炸裂した。肉球柄のパンツが見えた華麗なるその早業に、トオルは度肝を抜かれた。

 ――なんて軽い身のこなしなんだ!

「なにすんだよ!」

「やかましい! デカい図体でクレアにベタベタしおって気持ち悪いんじゃ!」

 ギャーギャーと騒ぐ迷惑なふたり。いつまで経っても収まりそうもないその狂騒に、トオルはうんざりした。なにしろ学校の課題も片付けなければならないし、なにより今日は月曜なのだ。週末ならいざ知らず、週初めから羽目を外して親に怒られたくはない。

「あのさ、もうじき家族も帰ってくるし……そろそろ解散しない?」

 遠慮がちな提案に、全員の動きがピタリと止まった。

「そうですねぇ。ご家族にご迷惑をかけるのは良くないですからねぇ」

「それもそうじゃな。それでは解散するとしようかのぉ」

 てっきり非難されるかと思いきや、意外に聞き分けの良い宇宙人たちだった。が……

「トモちんが帰ってくるのか? だったら、おれは残るぞ! そして俺の愛の抱擁で出迎えてあげるぜ」

 非常識きわまりない地球人に、トオルは眉根を寄せた。

「長二郎。お願いだから、今日はおとなしく帰ってよ。ねっ、頼むよ」

「そうじゃぞ。今日のトオルはいろいろあって疲れておるのじゃから、少しは遠慮するのが礼儀じゃぞ」

 なぜか巻き込み人身事故を引き起こし、勝手に他人の家に上がり込んだ張本人が、もっともらしいことを口走っていた。

「イヤだイヤだ! 俺はトモちんの帰宅を見届けるまで帰らんぞ!」

 体をよじらせて駄々をこねる長二郎の後頭部に、携帯電話の銃が突きつけられた。

「どうやら記憶を消されて廃人になりたいらしいのぉ」

 その物騒きわまりない警告に「謹んで帰らせて頂きます」と姿勢を正す長二郎。きっとアニメやマンガの脳内メモリアルを消去されるのがイヤだったのだろう。そんなことを考えていると、保子莉が長二郎の襟首を掴んでいう。

「おぬしも、いろいろとやることがあるじゃろうから、見送りなどの気遣いはせんで良いぞ」

「それではトオルさまぁ、また明日ぁ♪」

「トオルぅ! トモちんに『愛していた』と伝えておいてくれ。絶対だぞ!」

 死に際に残すような親友の言葉。きっとアニメかなんかに出てくる台詞を真似ているのだろう。

「うん、わかったよ。じゃあ、おやすみ」

 そろって部屋を出て行く三人に手を振り、階段を降りていく足音と玄関の扉が閉まる音を確認し、トオルは本音をこぼした。

「ようやく解放された」

 同時に荒れ果てた自室に愕然とした。ぐちゃぐちゃに乱れたベッドのシーツと、覚えのない河原のゴミに加え、一緒くたにされたスクールバッグと泥のついた靴。

「とりあえず片付けなきゃ……」

 と、ゴミ箱を持って不要なものを集めていると……

「なんで、こんなところに猫の餌があるんだ?」

 ベッドの上に残されていたキャットフードの袋をつまみ上げ、トオルは首をかしげた。

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