②
昼下がりの鐘が鳴ると、小原先輩のティーカップが久々にお湯を受けた。昨年は俳句の練習に雑談に、何をするにも何もしないにも部室に集まっては、こうしてお茶会をしていた。
「それで、先輩はどうしてここに?」
紅茶を蒸らしつつ、宗くんが尋ねる。
「連休だからね、莉子ちゃんと帰って来たんだ。今日は先生たちに挨拶に行って、それで……懐かしくなっちゃって、ちょっと寄り道。莉子ちゃんもそのうち戻って来るよ」
莉子ちゃん、というのは豊田莉子先輩のことだ。私との直接の関わりは薄いが、この文芸部が小原先輩一人だった頃、部員集めに協力してくれた方。受験勉強の邪魔になりそうでろくに取材もできず、彼女のエピソードはあまり作中に出せなかった。それでも、陰から文芸部を支えてくれていた人だ。
「わざわざ制服着て来たんですか」
「ああ、そう、そうなの。それね、莉子ちゃんにも笑われちゃって。私服で来て良いって知らなくて」
先輩は苦笑する。相変わらず抜けた人。
「大学生活はどうですか」
「すっごく楽しいよ! クラスに俳句の話が通じるひとも見つかったり、文藝部の新歓でお鍋囲んだり。最近は小説書くのにも興味出てきたんだ」
先輩の笑顔が、胸にずんと重かった。
「先輩」
宗くんが割り入るように声を上げるが、遅すぎた。
「うん? どうかした?」
「宗くん、やめてよ……気を遣われるのも、あんまり嬉しくないよ」
自分でも分かっている。いつまでも引き摺るべきではない。いつか先輩にも言わなければいけなかったのだ。それが昨日の今日だっただけで。
先輩も察して、表情を暗くする。
「瑞姫ちゃん……だめ、だったんだね」
「…………はい」
宗くんが紅茶を用意し終えて、先輩には砂糖とミルクを、私の方には砂糖のみを置いた。
「ごめんなさい」
「謝ることじゃないよ」
私は不意に謝っていた。先輩は私をなだめるが、どうしても、申し訳なかった。あれは私だけの作品ではなかったのだから。
先輩は紅茶をふうふうと冷まそうとして、飲めないままにカップを置いた。
「瑞姫ちゃんは、この部の生活は楽しかった?」
「はい、とっても……本当に、何よりも。ただ……だからこそ、あの本は大切にしたかったんです。賞を取って、出版されて、たくさんの人に読んでほしくて」
宗くんが背中をさすってくれる。泣きそうで、泣いてしまいそうな、そんな私を支えてくれていた。
「なるほどね、そっかあ」
先輩は、くすっと笑いかける。
「ねえ、瑞姫ちゃん。瑞姫ちゃんは、作品に満足してる?」
「はい、勿論です」
「評価されたかった気持ちは分かるよ、みんなの思い出を託した本だったもんね。でも、評価されなかったからって、その作品が悪い訳じゃない。言いたいことを言えた、書きたいことを書けたなら、それが一番大切なんだよ」
先生の受け売りだけどね、と先輩は付け足す。
「確かに、その通りです……ただ、それでも、このもやもやした気持ちが片付かないんです」
「なら、また書こうよ。またこの部で、次はもっと素敵な思い出を作ろうよ。今度こそ賞が取れるかもしれないし、取れないかもしれないけど、だめだったものは変わらないんだから。せっかくなら、これからを楽しもうよ」
「また、小説を?」
「うん。瑞姫ちゃんならできるよ。ずっと、夢だったんでしょ」
「…………」
先輩の言葉に、すぐには返事が出来なかった。それが正論だったからだ。そういえば、初めて小説を書いた日から、その根幹は変わっていなかった。私は小説が好きだ。まだ、諦めたくはない。小説を書かないなんて私らしくもない。
宗くんと目を交わして、大きく息を吸い込んだ。賞はまた取れないかもしれない。また落ち込んでしまうかもしれない。それでも、私はまた小説を書くのだ。宗くんと、そして文芸部のみんなと、最高の思い出を語り継ぐために。
「私、書きます。また、小説を書きます。今度は、今度こそは」
大きく揺れた若葉が夏の始まりを告げていた。五月の空は、眩しいほどに青い。
紅茶を飲み干した頃、豊田先輩が部室に来た。紅茶を入れようとするが、手持ちのお茶があるから、と断られる。
「久しぶりだね。瑞姫ちゃんに……そうそう、宗谷君だっけ」
「正解です。豊田先輩はどうですか最近は」
「まだ何とも言えないかなあ。実習とか始めると大変って聞いてるけど、まだオリエンテーションばっかりだから」
豊田先輩は、都内の医学部に進学したらしい。何でも両親からして医者の家系らしく、彼女もその道を選んだということだ。彼女が部員でなかった理由は、受験勉強に真剣だったからだけではなく、曰く創作の才能がないから。彼女の俳句を見たこともあるが、本当に才能がないのか、真偽は定かではない。むしろ才能がある部類だと私は思っている。
「あなたたちこそ、どうなの最近は」
「どう、と言いますと」
宗くんがティーセットを洗いつつ応じる。
「俳句甲子園。そろそろ締め切りじゃないの?」
「ああ、そうだ。それ私も聞きたかったの。部員って新しく入ったの?」
宗くんと目を合わせた。そして、先輩方に向けて首を振った。戸棚のティーカップは、埃を被り始めていた。
俳句甲子園とは、五人一チームで行われる大会だ。小原先輩は、あれを最後に引退し、受験勉強に専念し始めた。
「モチベーション、ですかね。また出ようとは、あまり……」
「特に、その……ルリ先輩が来なくなったのが」
私の補足に、小原先輩は納得してしまい、苦笑いを浮かべる。
「るりちゃんは気分屋だからねー、難しいよね」
ルリ先輩というのは苫屋瑠璃先輩。面白いことに目がなく、普通という言葉を極端に嫌う人だ。もはや変わったことをするために生まれてきたような人で、非常に飽き症でもあった。冷めやすいだけに熱しやすく、その熱が私たちを引っ張っていたのも確かだ。
「桜ちゃんはどうなの?」
「ルリ先輩がそうならって、お手上げですね」
「そっかあ、難しいね」
もう一度私たちが結束するには、きっかけが足りない。いつだって、物語の始まりには動機が必要なのだ。私たちには、それがなかった。
「先輩は、どうして俳句甲子園を目指したんですか」
「私は……うん。知ってると思うけど、私の先輩たちが負けたから、かな。先輩たちが全国に行けなかったから、その代わりと言ったら何だけどね」
それについては本にしたから知っている。あの本は、そこから始まった。
「あと、ここだけの話、先生にああ言われたからっていうのが一番かも」
「『小原が大人になれば分かるさ』ですよね」
そう言うと、四人とも笑い出す。
「嫌味な先生だよね。でも、そういうところなんだよね。なんだかんだ先生の言うことは説得力があって、私たちに必要なことをしっかり見てる。だから、『先生』なんだよね」
小原先輩は、懐かしそうに、優しく微笑む。
「あんまり言われると、俺も照れるんだがな」
その声に振り返ると、先生こと文芸部の顧問、西村先生が入って来た。殊勝な態度で、腕を組んでいるのが常。
「懐かしい声がすると思えば。久しいな、小原に豊田」
「久しいって、たった二ヶ月じゃないですか」
「女子三日会わざれば、だな」
それを言うなら男子ですと、小原先輩が突っ込む。
「おう、そうだな。一つだけ良いことを教えてやる。小原と豊田も、よく聞け。何事も、しない理由の方が見つかるものだ。あれが嫌だから、これが面倒だからと言っていれば、何もしなくなる。だからこそ、動機はもっと気楽で良い。楽しいか楽しくないか、それだけだ」
じゃあな、と言い残して、先生は廊下に消えて行った。
「先生だね」
「うん、先生だった」
先輩方が笑い合う。つられて、私たちも笑い出す。いつだってそうだ。妙にタイミングが良くて、いつも、全部見ているかのように語るのだ。
ふと、小原先輩が立ち上がる。
「それじゃあ、私たちはそろそろ」
「もう行かれるんですか」
「こんなに長居する予定でもなかったからね。ごめんね」
そう言われて、ここで出会ったのが偶然だったと思い出す。
「小説、完成したら読ませてね」
豊田先輩のそんな言葉に、くすっと笑う。
「はい、著作者価格で取り寄せますね!」
「よく言うわ」
楽しみにしてるよ、と残して豊田先輩が先に出る。小原先輩は思い出したように、くるっと振り返る。
花は葉に愛にもさまざまなかたち
「俳句……?」
宗くんの口から、ぼそり、と漏れる。
「これね、大学の句会で褒められたの。瑞姫ちゃんたちを想って詠んだから、上手くいってよかったよ」
先輩の笑顔が眩しい。俳句に久しぶりに触れたということもあるが、それ以上に、どうしようもなく楽しそうなのだ。かつては五人で、こうして笑っていたはずなのに、先輩の笑顔が遠い。それでも、たった十七音のそれが、胸の底へとどうにも温かく響いてくる。
「愛にもさまざまなかたち。良いですね、これ。どう読んだら楽しいでしょうね」
一番面白い読み方をしろ、とは先生の言葉だ。家族愛、自己愛、同性愛、性愛、禁断の愛。それこそたくさんの愛がある中で、誰を主人公にして、誰と誰の愛が詠まれているのか、そういった想像を膨らませるのも、俳句の醍醐味だ。
「まり、そろそろ時間危ないよ」
豊田先輩が催促すると、小原先輩は時計を見て驚く。
「もう時間なさそうだから行くね。瑞姫ちゃん、宗谷くん、その……元気でね」
「はい! 先輩も、どうかお幸せに」
悪戯っぽく笑うと、小原先輩は顔を赤らめる。
「もう……! ばいばい!」
そして扉に隠れるように、部室を後にした。二人、振っていた手を下ろすと、部室は急に静かになる。宗くんと目を合わせるも、言いたいことはあるのだが、何も言わない。
「姫、帰ろうか」
「うん」
宗くんもきっと同じことを思っていて、しかし言葉にはしない。この気持ちを私は知っている。宗くんも少なからず知っているだろう。うずうずと、胸の奥から湧き上がるこの心は、闘志と呼ぶものだ。
すぐにでも帰って、小説を書きたかった。汗ばみながら待つ信号も、子供の後ろを歩く歩道も、何もかももどかしかった。夕暮れの鐘と共に帰り着いた私は、一目散に自室へと駆け込んだ。鉛筆を取り、裏紙にプロットを書きなぐる。
「入るぞ」
ノックに返事はしない。私たちの間では、ノックは意味を成さない。形式ばかりが残るのは、人間らしいと言えるだろう。たまに返事をするときは、つまり鍵を掛けているときは、一人にしておいてほしい時か、着替えの最中くらいだ。
「どうだ、書けそうか?」
先輩の前ではああ言ったものの、本当はまだ怖かった。でも、それ以上に、私は小説を書くのが好きだった。
「楽しいか楽しくないか、だよ」
そうか、と素っ気なく返し、宗くんはベッドに腰掛ける。
「話しても良いか」
「うん」
「去年のことだけどさ。姫は小説が書きたくて入部して、でもルリ先輩への恩返しとして俳句を始めたわけじゃないか」
「そうだね」
「じゃあ、また俳句を……また俳句甲子園に出たいと思うか?」
「…………」
私は鉛筆を置いた。実際、分からない。そして、よく考えてみると、去年の五人は誰ひとりとして、俳句甲子園に出たくて俳句甲子園を目指していたわけではない。
桜先輩は元々、俳句甲子園に出たくないと言っていたが、ルリ先輩に流されただけ。ルリ先輩は面白いことがしたかっただけ。私はルリ先輩に恩返しをしたかっただけ。宗くんは私に付いて来ただけ。
そして小原先輩も、元を正せば、先生の言葉の意味を知りたかっただけだ。
全員の歯車が、どうしてか噛み合って俳句甲子園に向かったのであって、そもそも誰も俳句甲子園に向かってはいなかった。
「じゃあ、宗くんは出たい?」
宗くんは首を横に振る。
「俺は、俳句が楽しいんじゃない。五人で語り合うのが楽しかったんだと思う。少なくとも、俺はまだ俳句の楽しさを知らない」
そうだろうとは思っていた。宗くんは特に、文学からは疎い人間だから。
「でも」
宗くんは言葉を続ける。
「部活なんてそういうものだと思う。漫研に漫画を描きたくて入部する奴なんて少数で、音楽が好きでバンドを組む奴なんて滅多にいないと思ってる。少なくとも、部活っていうのは、もっと気軽で良いと思うんだ」
「それ、本気の人に失礼だよ」
軽く笑いつつも、困ったことに、全てが一点に収束してしまうのだ。楽しいか、楽しくないか、なのだ。
「俺は文芸部の皆でする全てが楽しい。姫もそうだ。だから、俳句甲子園に出よう」
「……でも、それって俳句甲子園じゃなくても良いんじゃないの?」
「そうだな。皆とするなら何でも良い。だからこそ、せっかくならもう一回出ようじゃないか。小原先輩のためにもな」
「でも待ってよ、あと数日なんだよ、部員だって足りてない」
「それが、大丈夫なんだ」
宗くんから一枚の紙を渡される。その紙を見て、私は目を見開いた。
「どうしたの、これ」
「先生からこっそり渡されたんだ。言い出すタイミングが見つからなかったけど」
「入部届……」
一年三組の、竹柴悠希さん。聞いたことのない名前だった。一年生に知り合いなどいないのだから当然ではあるが、私は動揺していた。
「偶然か必然かは知らないが、これでメンバーは揃ったわけだ。残りは桜先輩とルリ先輩の説得、そして句作だ」
「待って待って待って、無理だよそんなの! あと何日かで句を用意して推敲して……そんなの間に合うはずない! 去年だって二週間掛かったんだよ!」
「間に合わなかったらドンマイだ、そのときは出場を辞退したら良い。ダメ元なんだ、多少の無理は良いだろ」
宗くんがにっと笑って、私はそれ以上返す言葉がなかった。
「うー……私の負け。良いよ、やろっか」
書いていたプロットをくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に捨てた。そのままベッドに倒れ込む。新しい小説なんて書いている暇はなさそうだった。もっと新しい物語が、ここから始まるのだ。
「じゃあ、俺は先輩達に電話するから。制服、早いところ着替えた方が良いぞ」
はーい、と返事をして、部屋を出る宗くんに手を振る。足音が聞こえなくなるまで、息をひそめていた。
「まったく、こういうときばっかり強引なんだから」
悪態をつきながらも、私の頬は上がっていた。ああいうところが格好良くて、ああいうところが好きなのだ。
制服を乱暴に脱ぎ捨てて、枕をぎゅっと抱き締める。
「枕……枕に、枕を……」
枕を抱く幼馴染のその笑顔
改めて自分で俳句を詠んでみると、どことなく安心する。季語がないのを気にしてみるが、これは要らない、と思い直す。そして、そのまま夕飯まで眠り込んだ。
その夜、私は宗くんの部屋をノックした。返事を待たずにドアを開けると、宗くんは机に向かって何かを書いていた。
「宗くん、ちょっと良い?」
宗くんはペンを置いて振り返る。そして、私の持つ枕を見て、察したとばかりに笑みをこぼす。上手く眠れないのは夕方の仮眠だけのせいではない。
「参加締め切りが明々後日の九日、投句締め切りがその二日後の十一日だとさ。一応先輩達には電話したから、明日も部室に行こうな」
「う、うん」
返しつつ、ベッドに座り込む。枕は膝に抱く。
「今日は何も書かないのか?」
「短いの書こうか迷ったんだけど、しばらく執筆力を溜めたくて」
「何だそれ。溜めたら何か使えるのか」
「うーん……魔法とか? 手が三本になるみたいな」
「三本になったところで意味あるか?」
「ううん、ないかも」
宗くんが呆れたように笑って、私の隣に来る。宗くんが座ると、ベッドが苦しそうに軋む。
「あれ、何書いてたの?」
そっと机を指差す。
「俳句だよ俳句。俺は今から始めないと間に合いそうにないからな」
「あ、そっか……今年の兼題って何なの?」
兼題というのは、俳句のお題のようなものだ。俳句甲子園では、事前に指定された季語で俳句を用意しなければならない。
「陽炎、しゃぼん玉、立夏」
「なんかぼんやりした季語多いね」
「陽炎と立夏は分かるけど、しゃぼん玉もか?」
「何だろう、なんかこう……言葉にしづらいんだけど、儚いと言うか、はっきりしない感じ? ふわふわしてる」
私の言葉に、宗くんは難しい顔をする。彼は感覚的な話が苦手なのだ。代わりに論理的な話は大好きで、私とは正反対だ。
「宙に浮いてるって意味ではなさそうか」
「うーん、それもあるかも。ふらふらしては消える感じで、命が短いって言うのかな」
「なるほどなあ。何となく分かってきた」
俳句において感覚にせよ論理にせよ、季語を理解することは重要だと思っている。特に、その季語の本質というものは、辞書を引いただけでは分からない。
「それで、何か詠めたの?」
「全然。久しぶりだと詠めないな」
「久しぶりじゃなかったら?」
「時間の問題だな」
宗くんの悪戯っぽい笑みに、悪戯っぽく笑い返す。少しだけ眠気が生まれてきたようで、欠伸をした。
「ねえ、小原先輩の句、宗くんはどう思う?」
「愛の句か。そうだな……もう少し景を見せた方が良いんじゃないかとは思ったな。愛を詠む割には人が見えてこないと言うか」
「うーん……まあ、そっか。私たちを見て詠んだって言ってたもんね」
花は葉に愛にもさまざまなかたち、恋の句を詠むのが好きな先輩が、愛を詠んでいるというのが、まず可笑しかった。
「これね、私は、さまざまなっていう部分が大切だと思うの。だってつまり、二つ以上の愛を見てきたってことじゃない? 誰が何を愛してるのかは読者の想像次第だけど、どんな愛を想像しても、この句が伝えたいことは一切変わらないよね。それに、この句はある意味、読者を試してるような気もする」
「試す?」
「そう、試してる。幾つもある愛の中から、最初に浮かぶのはどんな愛なのか、きっとこの句は試してる。そして、最初に浮かんだ愛が、読者の最も大切にしてる愛なんだって訴えてくる。そういうところが、この句の良さじゃないかなあ」
宗くんはおぼろげに納得したようで、相槌を打つ。
「じゃあ、姫はどんな愛が最初だったんだ?」
「家族かな……うん」
今の家族も愛しているが、やはり産みの親というのは特別だった。
「家族か。なあ、後悔してないか?」
宗くんはたまにこんなことを言う。親元を離れることがどれだけ難しい選択だったか、彼も分かっていて、だからこそ心配してくれているのだ。何かを選ぶということは、何かを諦めることだから。
「何度も言ってるよ。それより、そろそろ眠くなっちゃった。明日は何時に起きたら良いの?」
「昼過ぎに部室って話だから、適当に起こすよ」
「そっか、了解」
膝に抱いていた枕をベッドに添える。宗くんが電気を消しに立つと、私は先に布団に潜り込む。
真っ暗になった部屋で、宗くんのシルエットだけが歩く。布団に入ってきた辺りで、ぼんやりと宗くんの顔が見え始める。
「おやすみ」
「うん、おやすみね」
そのまま目を瞑ると、やわらかな眠りに落ちた。
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