3話 出発

「おはようございます。」

「おはよう。ちゃんと家族に伝えてきたかい?」

「はい、バッチリです。」

昨日の夜、母に友達の家に泊まると伝えると、やっと友達と遊ぶようになったのね。と嬉しそうにしていたので、ある意味間違ってはないが、申し訳なくなってしまった。

「荷物はそこら辺に置いといて。武器はいつも通りのところに置いてあるから取っておいで。」

返事をして書斎を出ようとすると、社長があ。と零し、

「待って。やっぱり私も行く。」

と言ったので2人で武器庫に行くことになった。


この建物は地下が存在し、見られては困るようなもの―主に武器とか―が格納されている。ちなみに俺の武器は鎌である。

「どこだ…あった。」

何かを探しているようで、俺も手伝います。と言おうとした瞬間に目的のものが見つかったらしい。

「…社長、銃なんて使うんですか?」

「私じゃないよ。さなの護身用にと思って。剣とかよりはまだ使いやすいしね。」

そう言って、ライフルのような長身の銃を持つ。ここにある武器は本物といえば本物だが、社長が対魔法用に作り出したものが全てで、軍などが使っているようなものとは別物だ。基本的に、俺と社長の武器はそれぞれの魔力で構成出来るようになっており、何も無い空間から取り出すことが可能なのである。俺の場合、普段からそうしていると疲れるので依頼があった時にだけ、ここから取ってくるのだ。

あまり日が経ってないとはいえ、久しぶりに触るので旗のようにくるくる回しながら感触を思い出す。


そんなこんなで、お昼が来てお腹がぐーっと鳴る。俺のでは無く、社長の腹の虫が。社長の方を見ると恥ずかしそうに目を逸らした。

「よし。碧、昼食を買ってくるか、作るかしてくれ。」

「えー…」

食べに行くか、と誘うならまだしも自分は1歩も外に出ないスタンスだ。大したものは作れないので、コンビニに行ってこようかなと思ったが、1つ、疑問が頭をよぎる。

「いや、待ってください。もしかして俺の奢りですか。」

「えー。私の奢り?」

「当たり前でしょう。」

いくら見た目が高校生とはいえ、あっちは雇い主で毎月お小遣いで過ごしている俺とは違うのだ。というか、まともに給料さえ貰ってないんだぞこっちは。この建物は見えにくい、と言うだけで水道代やら電気代やらかかるので、月に1度来るか来ないかの依頼の報酬はだいたいそっちに当てられる。それでも俺に給料をくれる時があるので、それなりに貯蓄はあるのではないか、などといやらしいことをたまに考えてしまう。

「ちぇっ分かったよ。はい、これお昼代。」

お金を渡され、今度こそ俺はコンビニに向かった。



「はあー、やっぱりコンビニは美味しいねー!もう満腹だよ。」

とりあえず渡された分のお金を使い切るぐらい社長の好きそうなパンやお菓子を買ってきたので、最初はバカか!?と言われたが、いくつか食べ終わると、満足したようだ。

「ん?今から何するの?」

俺が鞄からゴソゴソと何かを出そうとするのを見て、社長が聞いてくる。

「ああ、課題をするんですよ。暇だし。」

「仮にも仕事中なんだが?」

そうは言っても暇なものは暇なのだ。


3時頃になり、社長がお菓子をつまみ始める。

「はあー、美味しい…なんでこんなにチョコは美味しいんだ…」

椅子の上でくるくる回りながら恍惚としている。目が回りそうだな…と思いながら見ていると、ほんとに目が回ったようでグラグラしていた。ぷぷっと笑うとこちらを睨みつけてきたので、ノートに顔をサッと向ける。


「こんにちはー。すいません、遅かったですか?」

5時になりそうな時に、設楽がようやく来た。

「全然。まだまだ時間はあるから大丈夫だよ。あ、でも渡したいものとかあるからちょっとこっちに。」

そう言って2人で書斎を出て、どこかへ言ってしまった。

少しして、足音がしてガチャりと扉が開く。そこには、おそらく社長のものであろう服─初めて設楽が来た時に社長が来ていたような制服を思わせる―を身にまとっている設楽がいた。

「…何してんの?」

一瞬思考停止し、我に戻って社長に聞く。すると、社長は得意気に鼻を鳴らし、

「ふふん。似合ってるだろう?私特製の、魔法及び物理に対して身を守ってくれる服だよん。顔が良いからどれ着せようか迷ってしまって。」

「…なるほど。まあ似合わなくはないけど。」

設楽は、普段こういう服を着ないのか少し恥ずかしそうに下を向いていた。

「あと、はいこれ。」

「銃、ですか?」

「そう。少しは自衛して貰わないといけないからね。対象に向かって銃口を向けて、引き金を引くだけだから簡単だろう?」

ジェスチャーをしながら言う社長に不安そうな顔をしていた。残念ながら、社長。初めての人は簡単じゃないんだ。などと思いながら設楽に説明する。

「その銃。社長が作ったやつだから、多分撃ちたいやつに向けて引き金引いたら自動追撃だっけ?それしてくれるはず。最初はやりにくいけど、慣れたら本当に簡単だと思う。まあ社長が守ってくれるから大丈夫だろうけど。」

それを聞いた設楽は少し安心した顔になって、良かった…と呟いていた。


一通り説明が終わり社長がパン!と手を鳴らす。なんだ、と思わず社長の方を見る。

「よし。夕食だ。」

出てきた言葉は食べることだった。うん、そんな気はしたんだ。だって何だかんだで7時ぐらいになったから。

「夕食って言ったって、どうするんです?またコンビニ?お昼のも一応余ってますけど。」

「いや、あれはおやつだ。ここは気分をあげるために食べに行こう。」

食べに行くのは嬉しいことだ。だが、あれをおやつと呼べる社長のお腹はどうなっているんだ。とまだ山になっているものたちを見つめる。

「ここら辺で美味しくて、かつスピーディーに食べれるところ知らないか?」

そう聞くと、設楽が手を上げた。

「それなら近くにマイクがありますよ。ファーストフード店で良ければですが。」

マイクと言うのはあの美味しいポテトやハンバーガーがすぐに食べれる有名なファーストフード店である。社長は待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに目を輝かせて、

「そこ行きたいところ!1人じゃ行きにくいからいつもパスタとか食べてたんだよねー!」

パスタとかって言うと、もしやファミリーレストランでは無かろうか。前に1度一緒に行った時にすごい慣れてる─美味しい食べ方とか知ってるな─と感じたが、1人で行ってるのか。いや、ダメじゃない。けど俺からするとファミレスは尊敬する。




「満腹ーーー。何回でも行ける…」

食べ終わって、事務所に帰る道で社長が言う。マイクの美味しさを知ってしまったから、俺をパシリでしばらく行かせそうだなと想像する。

「…周りから見たら私達どういう風に見えてるんだろう。」

ふと、設楽が言う。もちろん制服に着替えている。

「友達と一緒に来てるって思われてるんじゃないか?社長っていう立場を知ったからそう思ってしまうだけで。」

「あ、そっか。見た目は私達と同じ高校生だもんね。」

その後も、たわいない事を話しながら、初めてこんなに話すかもな。と感じながら歩く。


「では、行こうか。」

事務所に着き、少し休んだあと、それぞれの準備が完了した時社長の言葉を合図にまた事務所を出る。学校もここからは徒歩圏内なので、歩いていく。

「そういえば、どうして学校なんですか?」

別にそこじゃなくても良かったはずなのに、何故わざわざ人が多い学校にしたんだろう。

「そうだな…多分そこがあいつにとって1番何をするにも丁度いい場所なんだろう。学校の七不思議って、知ってる?」

「それって、トイレの花子さんとかの?」

学校の七不思議というのは、全ての内容は知らずとも、存在自体は大体の人が知っている有名な話だ。

「うん。そのうちの一つに、『夜中に3階しかない校舎に4階へ繋がる階段ができる。その階段は異界へ繋がるものであり、途中で止めようと思っても絶対に3階へ行くことはできない。』って言うのがあってね。君たちの学校は4階建てだけど、夜中に4階に登ってそこから繋がっている屋上に行くと、異界…やつの妖精領域がある。夜中に学校に行く悪い子達を怖がらせるためのものだったんだろうけど、それを利用したんだろうね。遊び半分で行った人ももしかしたらいるかもしれない。それに、学校の周りには住宅地があるから人を観察するには持ってこいなんだろう。」

自分達と近い距離に危険な妖精がいたなんて、思いもしなかったから、嫌な汗をかいた。

「思ったんですが、どうやって学校に入るんですか?」

ふと設楽が疑問を問いかける。確かにそれは俺も思ったことだ。誰も居ない施設に許可無しで入ることなんてなかったからだ。

「それはもちろん。魔法さ。ガチャり、とね。」


…ほんとに明言した通り、魔法でガチャり、と開けてしまった。

学校に着き、一応周りに誰もいないか確認して生徒玄関から中に入る。うっかり設楽と2人で内履きに履き替えてしまうところだったが、社長がそれに気づきすみません。と学校の廊下に謝りながら、土足で踏み入る。階段を上がるにつれ、心臓の鼓動がうるさくなっていくのを感じる。いつになってもこの直前の緊張はどうしようもないようだ。

「それじゃあ、開けるよ。気をしっかり保って。」

社長、設楽、俺の順で屋上に出ることになり、設楽も怯えながらも何とか扉の先に行く。俺もその後、開いた屋上の扉をジャンプで飛び越す。ぐるぐるぐるぐる全身が回っているようで気持ち悪くなりながらも意識を何とか保ちながら、ようやく地に足が着く。



目をゆっくり開けたその先にはただ、ただ美しい景色が広がっていた。

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