2話 失踪
「気をつけー、礼」
「ありがとうございましたー」
また、1日を締めくくる挨拶をする。
今日は社長から連絡が来ていたので早々と学校を出て、5日ぶりにバイト先に向かう。
「こんにちはーって、設楽?」
書斎の扉を開けると、社長だけでなく、設楽がいた。走ってきたのか、少し汗をかいていた。社長が目線でお茶を入れろ、と合図をするので呆れながらも3人分のお茶を入れる。
お茶で一息つき、今日も社長から話を切り出す。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「はい。えっと、実は4日前の夜、花音がいなくなったらしくってそれで急いでここに」
社長が確認するように俺の方を見た。しかし俺は初耳だった。
「え?俺は何も聞いてないけど…」
「多分、最近会ったことのある人にしか声をかけてないんだと思う。と言っても多分私だけだと思うけど。」
「…警察にはなんて言った?」
社長が設楽に問う。
「私が会ったのは1週間前くらいだからあまり分からないけど、最近よくぼーっとしていたとしか言っていません。妖精がどうとか急に言われても困るだろうし。」
「うん、その方がいい。学校に警察とかは?」
「最近学校に行ってなかったので、1日くらい捜査しただけでそのあとは特に」
ふむふむ、と少し考えて俺を見た。
「な、なんですか…俺は何も出来ませんよ…」
そう、岡部がいなくなったことさえ今知ったのに捜査で俺が手伝えることなんてないと思う。実際今までの事件もただ社長についてきただけだし。
「いや、前と一緒なら妖精領域の場所はあそこかなーと。」
「知ってるんですか!?前と一緒って…あ、そうか。昔会ったことあるんでしたっけ。」
「そう、昔っから戦いに行っては取り逃がすという恥をかいていてね。余計なことはしたくないあいつのことだから、多分場所も一緒だ。」
「どこ、なんですか?」
「ズバリ…学校だ。」
ん?と頭が一瞬ハテナになった。何故学校なんだろう。今まで会った妖精達は皆、森とか自然が多いところにいた気がするからだ。
「あいつは結構魔法を使えるし、他の妖精と生まれ方が違うから、人が多いところでも何とかできるんだよ。」
おそらく俺より頭がハテナマークになっているであろう設楽がようやく口を開く。
「えっと、その、つまり。花音は学校にいるということですか?」
「多分ね。早ければ、今日…明日の朝でもいいか。色々準備をして、明日の夜にでも行けるだろう。」
「あの、良ければ私もついて行っていいですか?もちろん、なるべく迷惑はかけないつもりです。」
「いや、それはさすがに…」
危ないからやめといた方がいいと言おうとしたら
「別にいいよ。身の安全は100%保証は出来ないけどね。」
「本当ですか!?」
「何言ってるんですか!?絶対危険ですって!」
俺と設楽の声が重なる。とは言っても内容は逆のことだが。何度か戦闘経験がある俺ならまだしも、設楽には荷が重すぎるのでは、と思ったのだ。
「まあそうなんだけどね。その場合、会ったこともない人と若干身に覚えがある人が迎えに行くことになる。それだと相手も不安だろう。」
それを聞いて設楽の方を見る。もうやる気満々のようだ。
「お願い、有栖!この目で、花音が無事なのかすぐ確かめたいから…!」
ぐぬぬ…と唸って降参とばかりに両手をあげる。
「…分かった。分かりました!」
「ふふ。まあ、私が何とかするから大丈夫だって碧。それで。幸い、明日は日曜日だ。夜に行くから、2人とも友達の家に遊びに行くとか何とか言って都合をつけてきてくれ。」
「分かりました。」
「では、明日。夕方ぐらいにまた来ますね。」
そう言って、設楽は事務所を出ていった。
「…社長。ほんとに岡部は生きてるんですか?それに、他の人も。」
4日も前にいなくなったら生存率が下がっているのではないかと心配になり、社長に問う。
「大丈夫。ちゃんと生きてるはず。あいつ、面白いことは好きだけど、殺すとかは嫌いだから。何十年も前に攫われた人の身は保証しかねるけどね。」
…そういえば、社長はその妖精とどんな関係なのだろうか。聞こうと思っても、その妖精のことを話す時は辛そうな、懐かしそうな顔をするものだから、聞けないのだ。
「そうそう、碧もちゃんと武器のメンテをしておくんだよ。あそこ、色々いるから。」
「…わかりました。とりあえず、俺は朝からここに来ますね。今日は明日のために英気を養います。」
そう言って、俺も事務所を後にする。
♦
「はぁ…」
2人が出ていき、ソファにダイブする。明日、ついに明日。ようやくあいつに会える。嬉しいような、辛いような。
「……」
敬愛すべき、尊敬すべきある男の姿を思い浮かべる。あの人のために私は為すべきことを為すだけ。それだけなのだ。
「私も、
まだ、まだやれる。顔を上げろ。立ち止まる理由も、資格も持っていないのだから。
♦
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