第2話 剣聖と魔術師(sideトレミア)

私は子供の頃からずっと、剣を手にすると、ざわっと全身の毛が逆立つような感覚を覚える。

そして自分が研ぎ澄まされて、周りのものがみんなゆっくりに見えてくるの。


全身を巡る血が熱くて、体が、羽根が生えたみたいに軽くなって、どこまでも行けそうで。


その感覚が好きだった。


7歳の頃に剣聖のギフトを持っていることが分かった時は、天職だと大喜びした。

嬉しくて、小さな頃から仲良しのユアンの所に走って行って、それを自慢した。


「すごいね。トレミア。良かったね」


ユアンは嬉しそうに笑って、私の頭を撫でて、「お祝いだ」って私の好きなお菓子をくれた。


ユアンは魔術師のギフトを持っていたから、


「剣聖と魔術師の俺たちが二人で組んで戦ったら、どんな魔獣にも負けないよな!」

「うん!」

と、よく言っては、二人で興奮して戦いごっこをしていた。


そして、15歳の頃、私は王国騎士の道へ。

16歳のユアンは私より先に王国魔術師の道へ進んでいた。


私が入った騎士団のレックス団長は、私と同じ剣聖のギフトを持つ人だった。

それまで負け知らずだった私なのに、レックス団長には全然勝てなかった。


それまでに積み重ねてきた実戦の経験が段違いだから、仕方ないのかもしれないけど、私は悔しかった。


だからがむしゃらに頑張った。レックス団長の技を目に焼き付けて、何度も摸擬戦に付き合ってもらった。


そして、16歳になったある日、とうとう団長の剣を弾き飛ばすことが出来た。即座に組み伏せられてしまったけど、私は嬉しかった。


それまで頑張ったことが報われた気がしたから。


実力が上がったからか、それまで一撃では倒せなかった魔獣も、一太刀で倒せるようになった。大きな実績を上げることが出来た。

だから私は嬉しくて、魔術師団にいるユアンに、小さな頃のように自慢しに行った。


でもユアンは、あの頃のように嬉しそうに笑ってくれなかった。


苦いものを飲んだような、苦しそうな顔をして、目を伏せて、

「良かったな」

ぽつり、と絞り出すように言って、すぐにどこかへ行ってしまった。


どうしたんだろう?とその時は思ったけど、

その日から、だんだんユアンは前みたいに明るく笑ってくれなくなった。


どうして?

と聞いても、何でもない、って言うばかりだった。


私は、怖くなった。


このまま、ユアンは私と話してくれなくなるんじゃ?私のこと嫌いになったの?


だから、口数の少なくなった、笑わなくなったユアンに、前と同じように話し掛け続けた。


ユアンが変わったなんてきっと気のせい。

きっと、たまたま機嫌が悪かっただけ。

いつか、また前みたいに明るく楽しそうに笑って、私のことを見てくれる。


私が前と同じように、ユアンのこと好きだよ、一緒にいれて嬉しいよ、って言い続けていれば、きっと繋がりが切れることはない。


そう思って、


どうしてユアンは私に笑ってくれなくなったのか、そのことは考えないことに決めた。

大丈夫。私が変わらなければ、きっとユアンもまた昔のように優しく笑ってくれるはず。


ユアンが機嫌が悪くても、冷たい態度をとっても、気にしないようにしよう。

そうだ、大好きなお菓子のことでも考えて、気付いてないことにしよう。

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