第3話 ユアンの葛藤(sideユアン)
くそっ。俺はトレミアに馴れ馴れしく笑いかける、調子のいいチャラチャラした男を睨みながら、憤懣やるかたなかった。
騎士団長に気を遣われたのもムカつく。トレミアもトレミアだ。俺にあんなこと言っておきながら、食い物につられてあっさり行ってしまうとか。
いや、確かに俺が食堂には行かないって断ったから、あれは仕方ないっていうか。
そうなんだけど。
……分かってるよ。ほんとは俺が一番腹を立ててるのは、素直になれない自分自身になんだ。
トレミアにあんなに好き、って気持ちを向けてもらえてるのに、素直にそれを受け取れない……。
だって、トレミアは剣聖のギフト持ちだ。
俺より1つ下なのに、もうあの騎士団長の次ぐらいの実力があるし、さっきのやり取りでも分かるように騎士団のやつらにも可愛がられてる。
……どころか、あのオレンジ髪は絶対トレミアのこと狙ってやがる。
さっきだって、トレミアが俺のこと好きだって分かっていながら、わざと俺を挑発するようなことを言ってきた。
あいつだって、あんなチャラくても、騎士団の中じゃかなり実力のある有望株だってことは知ってる。
なのに、俺にはまだ何もない。魔術レベルだっていまだにレベル5の壁を越えられない。まだ何もこれといった実績も作れてない。
こんな俺が、すでにいくつも実績を作ってるトレミアの隣に並べるわけないじゃないか。
誰がどう見たって見劣りする。
俺自身、トレミアにおんぶにだっこなんて死んでもごめんだ。
つまらないプライドだって分かってるよ。けど、好きな女の子に守ってもらうような情けない男には、絶対になりたくないんだ……。
もっとちゃんと、あいつにふさわしい男になれたら、その時はちゃんと素直になる。
だから今はまだあいつの好意に応えられない。まだその時じゃないんだ。ごめん、トレミア……。
でも、今日みたいにあからさまにあいつを狙ってるやつを見たら、どうしようもなく不安にもなる。
あんな風に分かりやすく好意を向けられたら、鈍いトレミアだって、いつか気付く。
そしたら、あいつの方が良くなって、俺のことなんて好きでもなんでもなくなるかもしれない。
そしたらどうするんだ。
そんなことになる前に早く、俺も好きだ、って言うべきじゃないのか。
でも今の俺じゃ……って堂々巡りに陥って、俺はどうしたらいいか分からなくなる。
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