第4話 デート?

「トレミアちゃん美味しい?」

「はいっ!めちゃくちゃ美味しいですー!」


兵舎の食堂の片隅で、はふはふとステーキを頬張るトレミアを微笑ましい目で見つめながら、マイロは美味そうに麦酒をあおった。


「ほら、俺の分のタルトも食べなよ」

「わーい!嬉しいです!」


トレミアが一通りご飯を食べ終わり、満足そうに食後のお茶を飲むのを見ながらマイロは言った。


「ねえ、明日の休日さ。良かったらお昼ご飯食べに行かない?すっごく美味しい鶏肉のチーズ焼きのお店があるんだ。俺はトレミアちゃんが美味しそうにご飯食べるとこ見るの好きだからさ~。一緒に行ってくれると嬉しいんだけど」


「鶏肉のチーズ焼き……」


明日はユアンとどこかに遊びに行きたいと思っていたトレミアだったが、大好物の誘惑に少し迷う。


それにユアンはここ数年、トレミアが誘ってもあまり付き合ってくれない。

明日もしっかり約束したわけではなかった。どちらかといえば断られる確率は高い。


(ユアン、前はずっと一緒だったのに・・・このままどんどん離れて行っちゃうのかな・・・)


そのことを思うと、少し気分が暗くなる。

なので、トレミアはあまり深く考えないように、頭を振った。


(うん、前向きに考えよう。もしかしたら明日はいいよって言ってくれるかも)


もしユアンが一緒に出かけてくれるとしても、朝が弱いユアンが行動を始めるのは大体午後からだ。

なら、お昼の早い時間にご飯を食べ終われば、ユアンとは午後から一緒にいられるかもしれない。


「えーっと、ご飯食べたらすぐ帰るかもしれないんですけど、それでも良かったら」

「やった!嬉しいよ。じゃあ11時半に宿舎に迎えに行くね」

「はい!楽しみです」


トレミアがにっこり笑うと、マイロも嬉しそうに笑っていた。


トレミアは食堂を出ると、一人で魔術師団の兵舎へ向かった。受付でユアンを呼び出してもらうと、しばらくして疲れた顔のユアンが出てきた。


「どうしたの」

「あっユアン、お疲れさま!あのね、明日なんだけど休日でしょ?良かったらね、どこかに遊びに行かない?」

「……俺、明日は用事があるから」

「そう、なんだ。うーん残念。じゃあ分かった、また誘うね。」


トレミアは一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに微笑むと、ユアンに手を振って帰っていった。


「はあ……自分が嫌になる」


ユアンはその姿を見送りながら、呟いた。




翌日、時間ちょうどにマイロがトレミアを迎えに来た。

ドアの外で待つマイロを見た宿舎の女の子たちが、きゃあきゃあ言いながらトレミアを質問責めにする。


「ちょっとぉー、マイロ様じゃん!なんで?トレミアいつの間に付き合ってるの!?」

「いやあ~マイロさまかっこいい~!私服も眼福だわ~!」

「マイロさま素敵すぎ。トレミアは許さん。あとで絞める」


「ちょっと待ってよ、ご飯食べに行くだけだよ!?付き合ったりとかしてないよ?私が好きなのはユアンだもん」


慌てて否定するトレミアに、みんなの目が冷ややかになった。


「あー。あの無愛想な幼馴染?まあ顔だけは綺麗だけど」

「うん。性格悪いんじゃないあいつ。断然マイロさまの方がいいって。確かに顔はすごくいいけど」

「うむ。あいつはない。顔は確かにいいが。」


顔以外何も褒められなかった。


「いやいや、顔だけじゃないって!そりゃあちょっと表情筋が動きにくかったりはするけど、ほんとはすごく優しいし、いいところもいっぱいあるんだよ?」


「うん、うん、そうなのね。でもそれより今はマイロ様でしょ!」

「あの捻くれ幼馴染より、絶対マイロさまと付き合った方がいいって。あとで話聞かせてね」

「マイロさまを待たせるな。早く行け」


自分たちが引き留めたくせに、とトレミアは釈然としないながらもマイロの元へ走っていった。


「すみません、先輩をお待たせしちゃって!」


「べつにいいよ。それより今日は可愛いね。そのワンピースよく似合ってるよ」


そういうマイロも、いつもの騎士服ではなく白いシャツに淡い若草色のパンツが爽やかで、とてもよく似合っていた。


「ありがとうございます。先輩もカッコいいですよ?私はいっぱい食べても苦しくないようにワンピースにしてみました!」


それを聞いたマイロは思わずぶはっと噴き出した。


「そんな理由で服選ぶことってある!?」


トレミアは不思議そうに首を傾げるのみだ。


「はー。やっぱトレミアちゃん面白いよね。だからなんか気になっちゃうのかもなあ~」


「私、面白いです?」


「うん、いやまあ。それはともかく、そろそろ行こうか。準備も万端なようだしね」


「はい、そうですね」


トレミアとマイロは連れだって歩き出した。


鶏肉のチーズ焼きのお店は庶民的な感じで気取っていなくて、トレミアも緊張せずに楽しく食べることが出来た。もちろん味も最高に美味しかった。


ワンピースのおかげでたくさん食べることができたトレミアは大満足だ。


料理だけじゃなく、マイロの話も面白かった。マイロは色んな話をしてくれた。トレミアが初めて聞くような話が多くて、とても興味深かった。


「この後もトレミアちゃんに予定がなかったら、一緒に行きたいところがあったんだけどね~。ご飯食べたらすぐ用事があるんだっけ?」


そういえば、ユアンのことがあったからそんなことを言ったな、とトレミアは思い出した。でも結局ユアンにはいつものようにそっけなく断られた。

少し胸が痛んだのは気のせい。ぶんぶんと頭を振って、トレミアは言った。


「いえ……そういえば用事はなくなったんです」


「ほんと?それじゃ、このあと中央にある植物公園に行かない?薔薇の花が見頃なんだって。薔薇ジャムも売ってるらしいよ」


「えっ、行きます」


反射的にトレミアは言ってしまって、またユアンに食い意地張りすぎ、って言われちゃうな、と、悲しいのか可笑しいのか分からない表情を浮かべた。


*********

あとがき:

トレミアがヒロインの乙女ゲーだったら、マイロの攻略難易度は★☆☆☆☆ですね。

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