第9話 魔術師はデレる(本編完結)
「ユアン、ねえ美味しい?」
「ん、美味しいよ」
飛竜討伐が終わりしばらく経った休日、ユアンとトレミアは連れだって植物園に来ていた。
珍しくユアンがどうしてもここに来たい、と主張したので、普段料理なんかしないトレミアも、頑張って具のはみ出たサンドイッチを作って来たのだ。
「見た目、なんかぐちゃぐちゃになっちゃったんだけど……」
「見た目なんて構わないよ。トレミアが作ってくれたものは何でも嬉しい」
「そ、そう、良かった」
ユアンに優しく微笑まれて、トレミアは赤くなって、視線を自分の手にあるサンドイッチに落とした。
何もかも吹っ切れたようなユアンの甘い態度に、トレミアはあれから翻弄されっぱなしだ。
あんなにそっけなかったユアンがまるで別人のように、顔を合わせれば「好きだよ」「トレミアは可愛い」などと口にするし、目が合うと、ふっと優しくとろけるような笑みを向けてくれる。
元々とても綺麗な顔をしていたけど今までは冷たい印象だったユアンが、こんな風に甘く蕩ける表情を浮かべていると、トレミアは胸がきゅううっとして、顔が熱くなって、ユアンの顔を見るのが恥ずかしくなってしまう。
が、本来は何でも思ったことをストレートに言うトレミアだ。
もじもじとしながらも言ってみた。
「あのね。私、ユアンがこんな風に私に好きとか……可愛いなんて言ってくれるって、今でも信じられないような気持ちで、それにユアンがそんな風に優しく笑ってくれると、なんか恥ずかしくて、どうしたらいいのか分からなくなるの」
それを聞くと、ユアンは自分の顔を両手で覆いながら空を仰いで、あーー、と声を上げる。
「いやほんと……それは、今までの俺が悪かった。ほんと、ごめんな」
「え。ううん、それはもう大丈夫だよ」
「いや、ほんとにこれまでが素直じゃなさ過ぎたんだ。つまんない意地とかガキっぽい嫉妬とかで、馬鹿な態度取って……。俺、ほんと情けないやつだ」
「ユアンは全然、情けなくなんてないよ!?」
トレミアは言ったが、ユアンはちょっと目を逸らしながらボソっと呟く。
「……ここに来たいって言ったのも、ちょっと、あいつの上書きしたいとか、そんなつまんない気持ちもあったし」
「えっ!?あ、そ、そうな、の?」
トレミアはこのベンチでマイロにキスされたことを思い出して、ユアンがそれをそんな風に気にしてくれていたことが、恥ずかしくはあったが、じんわりと嬉しく感じた。
ふと見ると、ユアンの逸らした顔も赤くなっている。
それを見ると、トレミアは思わず口にしていた。
「えーと、上書き、してもいいよ?私、ユアンなら嫌じゃない……」
「えっ」
ユアンは目を丸くしながらトレミアを振り向くと、トレミアは自分が言ったことが恥ずかしくなったらしく、慌ててユアンから顔を逸らした。
ユアンは体ごとトレミアに向くと、そっと手を伸ばしてトレミアの体を自分に引き寄せ、抱きしめた。
「好きだよ、本当に」
「私も……」
おずおずとユアンの背中に手を回して、トレミアも呟いた。
ユアンは少し顔を傾けると、トレミアの柔らかい唇に軽く触れるだけのキスをした。
トレミアも目を閉じ、それを受け入れた。
「ずっと大事にする。これからもずっと俺が守るから」
二人の唇が自然に離れると、ユアンが言った。
トレミアはものすごく嬉しくなって、いつもの元気いっぱいな調子に戻って言った。
「うん!私も大好きなユアンのこと、絶対に守るね!」
「……ははっ、剣聖のお前が言うとか、そんなの間違いないじゃんか」
何しろ、俺より強いんだもんな。と心の中で思いながら、ユアンは笑った。
「でも、お前時々危なっかしいから、俺はお前のことちゃんとサポート出来るように、これからもっともっと強くなるよ」
「うん。頼りにしてるね!」
―――――ユアンが魔術師団長のカーギスに並ぶのは、そう遠くない未来の話。そしてその隣には剣聖の少女が常に寄り添っているのだった。
本編完結
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ツンがデレたところでひとまず終了できました。次からはお待ちかね?のえちえち展開でもっと甘々になる予定です。
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