沢田肉屋の前で

 ばあちゃんが寝息をたててすやすや眠り始めたから、俺はばあちゃんにそっと毛布を掛けて、病院を出た。


 そのまま家に帰ろうとしたが、なんか寂しくなって、元沢田肉屋の方に向かった。


 今ではもう物静かな元沢田肉屋の前で、いつもの女性が一人、立っていた。



「沢田のばあちゃんも、もう長くないらしいです」


 咄嗟に声をかけてしまった後に、声をかける必要はなかったのではないかと思ったが、女性は優しく言葉を返してくれた。


「そうなんですね……泣いてらっしゃる?」

「いえ、泣いてないですよ」


 俺は腕で涙を拭いながら言った。

 嘘バレバレじゃねえか。


「では、これで……」

「あの!!」


 女性が帰ろうとしたから、呼び止めようとしたら少し大きな声が出てしまった。


「何でしょう?」


 女性が驚いたようにこちらを振り向いた。



 ばあちゃんは勇気を振り絞って俺に告白したから恋を思い出した。俺は、ずっと遊んでばかりで一生恋しなくてもいいのか?

 俺も本当の恋がしたい。このまま死ぬなんて、絶対に嫌だ。今こそ勇気を振り絞るべきだ。





「ちょっと話をしてもいいですか――」




 [完]

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肉屋のばあちゃんに告られたんだが!? n:heichi @n-heichi

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