一週間後
一週間後、また沢田肉屋に行った。というか沢田肉屋には昔からよく来ている。
やはり沢田肉屋の肉はうまい。決してばあちゃんに会いたいから行く訳ではない。
「こんにちはー」
キーー。
建てつけの悪いドアが嫌な音をあげてきしんだ。
「おや、お主ではないか」
ばあちゃんの死んだような目が少しだけ細くなった。きっと、あんなことを言ったからもう来ないのではないかと心配していたのだろう。
店には俺とばあちゃん、そしてこの前も来ていた女性がいた。女性が指輪を付けていないことはこの前確認している。何を気にしてんだ、俺。
「来てくれたんじゃな、嬉しいのう」
女性がいなくなった瞬間、ばあちゃんは話しかけてくる。
「それよりばあちゃん、大丈夫っすか?今までは四十度くらいに曲がってた腰が最近六十度くらいまで曲がってますけど」
半分冗談で言ったけれど、本当に心配だ。その腰は商売出来る腰じゃない。
「心配ありがとのう。わたしゃいつポッキリ逝くかもう分からん。その時は、そうじゃな。沢田医院にお世話になるかもな」
ばあちゃんはすぐ近くの病院の名前を言った。自分の名前と同じだという冗談を言ったのだと思うが、全く笑えない。
それからも俺は、沢田肉屋に行き続けて、そのたびにばあちゃんと話した。時々いつもの女性もいたが、逆に、この店に来るのは俺とその女性くらいしかいなかった。きっと、それもばあちゃんの腰を曲げた原因の一つだろう。
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