第118話 特別な存在
「わたしが教師……ですか」
「うむ。既に弟子がいるようじゃからそこら辺は問題なかろう。生徒も弟子とさほど変わらん。リベアちゃんに教えているように授業してくれればよい。毎月高い給金も出るしの」
生徒と
「……お言葉ですが陛下。生徒と弟子は同等の存在ではありません。大賢者の弟子というのは生涯でただ一人の特別な存在だと決まっています。なので弟子とその他大勢とでは教える内容も変わってきます。そこの所、お間違いなく」
少し、ほんの少しだけ部屋の温度が下がり、部屋の外にいる近衛兵達がザッと警戒を示します。
ちょっと冷気を出しただけなのに。
これだけで気付くなんて、きっと優秀な人達なんでしょう。
「あなた……」
「す、すまぬティルラちゃん。許してくれ。儂も学ばんの。前にもシャルティアに似た様な事を言って怒らせてしまった事があった……」
「師匠に? ですか?」
「そうじゃ。うちの宮廷魔導師に手ほどきしてはくれまいかと。そこで弟子という言葉を出したら数ヶ月ろくに口を聞いてもらえんかった」
「ああ、そういえば王都から帰って来て機嫌が悪かった時期がありましたね。あの時ですか。ま、わたしはあの人より心が広いのでキレたりしませんが」
パッと笑ってあげますと、わたしの気分に合わせたかのように部屋の温度が上昇します。
いけませんね。魔法をよく知らないメイドさん達なんか怖くて肩が震えてます。
それでも恐慌状態に陥らず、誰も声を上げないのは流石王宮で働くメイドといった所。日々の生活で胆力が鍛えられているんでしょう。
「メイドさん達方もびっくりさせてしまいすみません。以後気を付けますのでどうかご容赦ください」
せっかく自分の魔力をコントロール出来る様になってきたのに、強い感情に左右されてまた緩んできてますね……気を付けねば。
「ふぅ、ティルラさんが優しい人でよかったわ。それとね宮廷魔導師の話で思い出したんだけど、将来は功績を讃えて王家専属魔導師の話が上がってるんだけど……」
「それは丁重にお断りします。わたしには色々な意味で務まりませんから」
「うん、そうよね。シャルティアの言う通り。安心して、まだ言えないけどそういうと思って肩書きだけの立場を用意してるから」
「……それはどうしても、ですか?」
「これはシャルティアがあなたの身を案じて生前立案したものよ。それに言いにくいんだけど弟子のリベアさんや幼馴染のソフィーさんの事もあるから、立場的に、ね?」
「…………」
ふーん。一応あの人、自分が死んだ後の事を気にかけてくれてたんですね。
そして王妃様の口振りからして、この役は受けないと“もしも”の時の対応が取りにくくなりそうです。
二人の手前、ここは呑みましょう。
「わたしからも一つ質問です。前もって師匠が根回ししていたならなんでニ年近くも音沙汰なしだったんですか? 姫様の事がなくてもわたしを大賢者に据えるつもりだったんですよね? やっぱり勇者関係ですか?」
「それもあるけど、シャルティアに自分が死んでからあの子が一人で立ち上がって新たな一歩を踏み出すまでは絶対に手を出すなって言われてたの。最低でもソフィーさんと仲直りして墓参りに来るくらいまでは、と。でもまさか自分の弟子を作って、その弟子と一緒に墓参りに行くとは思わなかったけど」
「見ていたんですか」
「部下からの報告を受けてね。それで夫と話を進めていたの」
「……ふむ、幾つかの条件を付け加えさせて頂くことにはなるでしょうが、魔法学院の講師の話、前向きに検討させてもらいます」
「え」
「……これはうちの弟子が失礼しました」
「いいえ、平気よ。家に帰ってゆっくり話し合って頂戴。特にリベアさんとはね」
「そうみたいですね」
弟子の方を見ると、終始蚊帳の外だった為、話について来れなかったようですが、場の雰囲気とわたしの回答を受けてか、とても涙目でした。
大丈夫だよと頭を撫でてあげると、リベアはわたしの手を取って頬に寄せました。あらら。
ソフィーの方は眉間に皺を寄せてなにやら深刻そうな顔しています。
帰ったら大変ですね、これ。
「うむ。大賢者ティルラよ。帰りの馬車は既に用意しておる。良い返事を期待しておるぞ」
「はい。では失礼致します。三人とも帰りますよ―――」
「は、はい!」
「フィア、行くわよ」
「はい、お嬢様」
そうしてわたし達は話を終え、リベアはメイドさんからお土産に幾つかお菓子とレシピを持たせてもらうと王宮を後にするのでした。
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