第112話 義両親との再会 前編【姫様視点】
こんなにもドキドキするのはいつぶりか。もしかしたら幼少期以来かもしれない。
時計を見る。約束の時間までまだ少しあった。
「お姉ちゃんには悪いことしたなぁ……あとで謝らなきゃ。ティルラさんにも」
もうすぐ、ずっと昔から会ってみたかった義両親達がやって来る事になっている。
私一人で会うことを心配した姉が「お姉ちゃんも同席する!」と言ってきたが、お姉ちゃんにはお姉ちゃんの相手がいるでしょ? 一人でも大丈夫だからと同席を拒んだ。
少し意地悪だったかもしれない。でもこれでいいんだ。そろそろ私も姉離れしないといけないから。
お姉ちゃんには一緒にいるべき相手がいる。私にはいない。それだけの違い。
「……そろそろ自分の婚約について、お父様達と真剣に話し合わないとね。いつまでも保留には出来ないし。うん、今日で平民の少女“アリス”は終わり。明日からはフィルレスム王国第二王女ユリアとしての責務を果たすんだ」
誘拐され、捨てられた後、王家から迎えが来るまで私を育ててくれた心優しい夫婦。
時間になったら通すよう外のメイドには言ってある。二人の娘さんも来ているそうだから是非仲良くしたい。
(ティルラさんに頼んで正解だったな。流石は大賢者様)
彼女は今、お父様達と会談している頃だろう。ティルラさんを騙すような形で【大賢者】と世間に公表することになってしまったが、私だって巻き込まれた者の一人だ。
どうやらティルラさんが大賢者の称号を正式に引き継ぐ事はお父様達の間では決定事項であったらしく、私が王宮から逃げ出したのをこれ幸いに利用した。
彼女を王都に呼ぶ口実が欲しかったのだろう。
「ずるい人たち……それを言ったら私もか」
ティルラさんが聞いたら怒るだろうが、私はこれからが大変だろうなーと結構他人事のように考えている。
まあ私にも一応の責任はあるし、弟子のリベアちゃんは同い年で可愛いから面倒を見てあげようとは思う。
うん。これからも二人とは仲良くしたいな。
姉は……ちょっと距離を置いてやろう。もしかしたら嫉妬してくれるかもだから。
「二人に言いつけたの、お姉ちゃんだったし」
あの日の脱出劇は姉から報告を受けた両親の判断により、あえて見逃されていたらしい。
つまり私の行動は全て筒抜けで、お父様達の掌の上だったというわけだ。
可愛い妹を裏切ったお姉ちゃんには少し怒っている。だから一人で会う事にした。
(お姉ちゃんの前ではああ言ったけど、本当は少し怖い。お姉ちゃんには私の側にいて欲しい……でも自分で決めた事だから)
義両親とは赤ん坊の頃に会って以来だ。
当然生後何ヶ月の赤子だった頃の記憶などない。物心がついたのだって
人は未知を恐れる。
だから人間は魔族と戦争をした。
魔族も同じだろう。人を理解できない。理解できないものは悪だ。滅ぼすしかない。
(逆に未知が既知となれば恐れは消える。そのために今日ここに彼らを呼んだんだ)
メイドの手によって、部屋の扉が数回ノックされる。
「
「入れて」
扉が開くと、緊張の面持ちをした両親がまず前に出てくる。遅れて娘さんも二人の陰からひょっこり現れた。
あ、と声が洩れそうになるのを押さえる。
今までおぼろげだった記憶が、二人を見た事で鮮明に思い返せるようになった。
記憶が繋がった。そんな感覚だ。そんな二人の娘リティは、どことなく二人の面影のある少女だった。
「アリス様。この度は私共をお招きいただきありがとうございます」
かたいな、と思う。義理の娘なんだからもう少しフランクに接してくれてもいい筈だ。
でも、そんな細かな事より目を見張るものがあった。
(一般家庭からしたらかなり綺麗な生地で作られた服を着てるわね。貰い物?)
身なりがそこそこ整っているのは、グラトリア家の人たちがあれこれ援助したんだろう。あそこの家はいい人達ばかりだから。
別に礼服じゃなくて、私服でいいって言ったのに。あ、でもリティちゃんは普通の服だ。
「お義父様。お義母様。そしてリティちゃん。そんなに固くならないで、ここには私たちしかいないんだよ。それに今日はただの女の子、アリスだから。三人とは気兼ねなく話したいの」
緊張を解くために出来るだけ柔らかい口調で言ってみたものの、どうにも命令してるようになってしまう。
いくらただのアリスといっても、根本は王女だから、なんかオーラ的なものが出ているのかもしれない。
ティルラさんは王族オーラぱねぇって言ってたし。
「「…………」」
「…………」
やばい、すごく気まずい。なんか話さなきゃ。
「ねぇ、
ひょこり出てきたリティが、私の腰辺りにしがみつき、上目遣いで言う。
それを受けて私は、ズキューンと胸を撃ち抜かれる感覚を覚えた。
はぐっ!!
さすが妹属性。甘え上手だ!
「アリスおねっ――いいよ。いっぱい食べな。なんせ私はリティちゃんのお姉さんだからね」
どんーっと胸を張り、用意していた箱詰めの菓子を手渡す。
リティは「ありがとう!」と言って受け取ると目を輝かせて食べ始めるのだった。
私に妹がいたら、きっとこんな感じだったんだろうなと思う。
現実は一番末っ子だけど。
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