【連載版】長年引きこもっていた屋敷から「お前の研究はもう必要ない」と追放されたので大賢者の正統後継者として自由に生きて行く事にします〜気が付いたら弟子に告白され、師匠を超える大賢者になっていました〜
第108話 (ふえ? カッコいい……やばい。今すぐ結婚してほしい。いえ抱いて下さい!!)弟子《リベア視点》から見たティルラ
第108話 (ふえ? カッコいい……やばい。今すぐ結婚してほしい。いえ抱いて下さい!!)弟子《リベア視点》から見たティルラ
その日の朝はとても慌ただしいものでした。
まず沢山の足音で目が覚め、次にあちこちから声が聞こえます。その後、「私が見てきます!」と元気な女の子の声が聞こえたかと思えば、バンッ! と誰かが勢いよく扉を開けて入ってきました。
ぷらいばしーのしんがいですね。
「うぅーん……どちら様ですかー?」
ベッドの脇に立った弟子が、両手をグーにして腰に当てます。
「やっぱり寝ていましたね。師匠、今日がなんの日か分かってるんですか?」
「わかっていますよー。今日は姫様と義両親が秘密裏に会う日です」
「そうです。今日はとっても大切な日なんですよ!」
ガバッとリベアがわたしの布団を剥ぎ取ります。
「んやぁっ! ……リベア、着替えるにしてもまだ約束の時間には早過ぎませんか?」
「もう、その前にアリ……ユリア第二王女様方が参列するパレードを見に行くんですよね?」
「あー確か『絶対来てね! 来なかったら冤罪で捕まえちゃうよ! (キラッ!!)』って招待状に書いてありましたね」
弟子と話しながら、だんだん思い出してきました。
ソフィーによると、毎年行われる王族主催の催し事はとにかく混む事が予想され、さらに今回は第一王女様と勇者の祝賀祭という事で王都はお祭り騒ぎ。
他国からの御客人も多く、不審人物が入り込むのを防ぐ為、祝典の一週間程前から検問がとても厳しくなるとの事。下手したら一日待たされるなんて事もあり得るとか。
という訳で、五日前にグラトリア家御用達の馬車で自宅を出発して早くに王都入り。待たされるかと思った検問は、王族の刻印が入った招待状を見せれば一発オーケーでした。
そのままわたし達はソフィーの実家であるグラトリア家で、惰眠を貪りながら約束の日までお世話になっていました。
「そうだとしても参列式は午後からですよね? まだ6時半ですよ。せいぜい8時くらいまで寝かせて……」
「いいえ。そうはいきません。まさか師匠、晴れ舞台の日にいつもの服装で行く気じゃありませんよね?」
「え、ダメなんですか? というか晴れ舞台って? 主役は姫様達ですよ?」
当然のことを言ってみますと、弟子も負けじと言い返してきます。
「ダメに決まっているでしょう! 私にとって師匠ある所は全て晴れ舞台なんですから!! ――メイドの皆さん、このアホ師匠を誰が見ても惚れてしまうくらい御粧ししちゃって下さい!! 本当は師匠の魅力は私だけ知ってればいいんですけど……師匠の素晴らしさをもっと色んな人に知ってもらいたい気持ちもありますから!!」
「ま、待ってください。わたしはそんな事望んでな――」
ガシッと中年メイドの一人に肩を掴まれます。あれっ? 混乱している内に後ろからも。
「はーいティルラ様。観念しましょうね」
「ティルラ様。これはお嬢様の命令でもありますので」
「なっ、お二人もそっち側ですか」
「フィアさん。カルラさん。師匠の事、お願いしますね」
「はい。お任せくださいませ、リベアお嬢様」
「か、カルラさん。お嬢様は……やめてくださいって」
「ではリベア様と。それではティルラ様はこちらでお預かりさせて頂きます」
二人に両脇から抱えられ、わたしは連行間近。
「リベアー。たーすーけーてー」
「師匠。私が惚れ直しちゃうほど綺麗になってきて下さいね!」
頼みの綱の弟子には笑顔で見送られてしまいました。こんちくしょう。
「はーい。暴れないでくださいね〜。逃げようとしたら奥様に言いつけますからー」
「うぐっ……卑怯」
フィアとカルラさんを筆頭に、わたしはグラトリア家のメイド達に連れていかれるのでした。
◇◇◇
それからわたしは湯浴みをさせられ、くせっ毛な髪は綺麗に梳かされビシッと整えられます。それが終わると数人のメイドさんから化粧を施されました。正直鏡を見て、自分が自分じゃなくなったって思いましたね。
「はーいティルラ様。次はこれに着替えて下さい。ティルラ様の為にグラトリア家が用意した特注のドレスですよ。着たらリベアさんの後でいいので奥様にも見せてあげて下さいね。すごい楽しみにされていたんですから〜」
最後はトドメとばかりに人生初のドレスを着させられました。
「ううっ。もうどうにでもなれです」
身体のラインに沿った漆黒のドレス。スカート丈は膝下にかかるくらいで、片方の肩を出したワンショルダー型。
正直とても恥ずかしい。それに黒のドレスなので銀髪が目立ちます。いいのかな、これで。
ちなみに髪型も変えられ、9:1の横分けにされました。サイド寄せっていうらしいです。
「ふふっ。可愛らしいティルラ様もいいですが、こういう凛々しい姿もお似合いですよ」
「わたしは凛々しくなんて似合わな……へっ?」
鏡に映る自分は、それはそれは凛とした立ち姿をしていました。
元より肩にかかる程度の短い髪だったのもありますが、まさかカッコいい系女子に変身するとは……自分でも信じられませんね。
知的なオーラがわたしの中から溢れ出てきています。
「おおっー!」
少し毛先を整えて、髪型をいじっただけなのにこの変化……貴族令嬢に仕えるプロはやはり違いますね。
雰囲気からしてガラリと変わったと思います。メイドさん達のメイク加減も絶妙で、可憐さも残しながら目鼻立ちをハッキリさせた気品ある顔に仕上げられていました。
「これが本当にわたし? ん?」
鏡の自分に見惚れていると、扉からひょっこり弟子が現れました。
「師匠ー? フィアさんから着替えが完了したって聞いたんです……が……?」
「リベア?」
ぽかーんと口を開けたリベアが、私の顔を見てフリーズしちゃいました。どうやら弟子のドストライクを突いてしまったようです。
「ふ……わぁ……すてきです。ししょう」
空気を読んで他のメイドさん達は退出。部屋にはわたし達だけに。
なんか照れますね。でもここまで来たら羞恥は捨てることします。
彼女に近づき、耳元にそっとしゃがみます。
「リベア? どうした? 今何を言ったかよく聞こえなかったな。もっと大きな声で言ってくれ。わたしの顔に何かついてるのか?」
あえて師匠風な言い方で言ってみました。するとどうでしょう。弟子は「はわわわっ!」と言って、頬を押さえあたふたします。
そして奇行が止まったかと思えば、ギギギとこちらに首を向け、真面目な顔でこう言いました。
「――師匠。唇にキスしてもいいですか? あと顔触ってもいいですか? 舐めてもいいですか?」
我が愛弟子はとんでもないことを言ってきやがりました。
「な、舐めっ!? ダメに決まっています!! 化粧が落ちちゃいますから」
「なんでですかー! また化粧して貰えばいいじゃないですかー。師匠レベルの顔ならメイドさん達も喜んでやってくれると思いますよ」
「ダメなものはダメなんです!! とにかく一旦出てください!! あなたも着替えがあるんでしょう!?」
グイグイと出口まで押しつつ、何気なく言ったその言葉に弟子は反応しました。
「え? ソフィーさんなら別室で着替えていますが、私の分のドレスはありませんよ?」
「えっ? リベアはドレス、着ないんですか?」
「はい」
弟子は首を縦に振ります。
あれ、あれれー? おっかしいなー?
「考えてみてください。貴族仕様のドレスなんてとても高価ですし、何ヶ月も前から店で仕立てを始めるんですよ。リーナさんには用意出来なくて申し訳ないと謝られましたが、私にそんな高価な物を着る権利はないです。なので私は魔法使いの正装で参加する予定です」
「あ」
弟子が去り際にぎゅっと抱きついてきて、ダメと言ったのにほっぺにキスしていきました。「では、ソフィーさんの所へ行ってきますね。また後で」と言って扉はパタリと閉められます。
「ティルラ様。最後の仕上げといきましょうか。今一度ドレスをお脱ぎ下さい」
入れ替わるようにやってきたカルラさんが、貴族令嬢特有のある物を持ってきました。腰を細く、くびれをつくる為に用いられる品、その名もコルセット!!
「い、嫌です。それは勘弁して下さい」
「何を言ってるんですか。王族や色んな人から見られることになるんですよ。少しでも美しく見せるようにと奥様から仰せつかっております」
「だからどうしてそんな事に――」
「はい、行きますよッ! 息を吸ってー!」
カルラさんが思いっきり、後ろの紐を引きました。
「うぎゃぁぁぁぁー苦しいですぅー。もう……無理……無理、それ以上はきつい――ひぅっ!」
貴族の女性って凄いですね。ソフィーが嫌がるのも分かります。こんな物を腰に巻いてパーティーに参加して優雅に振る舞っているのですから。こんなの拷問です。ソフィーには同情します。
「う、ううっ。ぐずっ……」
「大賢者ともあろう人が、コルセットで泣かないで下さい」
カルラさんにキツく締め上げられている間は、とにかく地獄のように苦しい時間でありました。
「次に呼びに来る時までには、それに慣れてて下さいね。魔法はダメですよ。癖になっちゃますから」
「はい……」
そうして一人きりになったわたしは、早速魔法を使用し、腰にくる痛みを感じさせなくするのでした。
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