第106話 突撃! ご夫婦の家!!

 シーヴ婆から夫婦の情報を得たわたし達は、ソフィーと決めた待ち合わせ場所で待機しておりました。


「リベア、そろそろ二人が来ますから」

「まだ大丈夫ですよぅー」


 猫撫で声で、弟子が肩を寄せてきます。


 仕草もそうですが、距離の詰め方が愛くるしいネコそのもの。


「やれやれ。可愛いからなんでも許されると思ってるんですか? その通りですけど」


 同居人がもうすぐ到着するというのに、リベアはわたしの側から離れようとしませんでした。


 ま、わたしも自分から手放すなんて真似はしませんが。


「あなた達ちょっといいかしら?」


 腕を組んでイチャコラするわたし達に声を掛ける女性が一組。


 まさかナンパですか? 


 この甘々空気の中、堂々と声を掛けるとは……中々度胸がありますね。どちら様でしょうか?


「誰であろうとリベアは渡しませんよ」


「人の弟子を取ったりしないわよ、バカ!」


「おや? お二人でしたか」


「あ、フィアさんにソフィアさん!」


 村娘姿のソフィーとご令嬢風のフィアでしたー。お二方の様子を見るに、正体を明かさず調査を終えたようですね。


「リベアさん凄く嬉しそうですね。フィアも二人の仲を応援してる者として嬉しい限りです!」

「はい。師匠も私の事大好きなんですよー! ねー師匠!」


 わ、その笑顔は反則です。


「まーそうですね」

「えへへ。嬉しいです」


 スッと距離を詰めた彼女はわたしの肩に、こてんと頭を預けます。女の子のいい匂いがしました。師匠の薬品と煙草混じりの匂いとはまた違いますね。


「しょうがない子です」


 弟子の自主性を重んじるタイプの師ですので、彼女が自らの意思で離れるまで会話中もこのままでしょう。


「……随分距離が近くなったじゃない。何かあったわけ?」


「まあ、色々と……。そっちは何か収穫ありました?」


 リベアが危険な目に遭ったなんて口が裂けても言えません。お説教コース間違いなしです。という事で話題転換。


「……ええ、あったわよ。あんたの方も?」


「はい。夫婦の所在が分かりました」

「夫婦の所在が分かったわ」


「「あ」」


 ソフィーとわたしの声が重なります。


 どうやら表組も裏組と同じくらい頑張ってくれていたようです。


「とりあえず場所を変えましょう。ここでずっと話しているのも目立つわ」


 ソフィーの提案で、近くの喫茶店に移動して情報をまとめる事になりました。


◇◇◇


 店内には店主の他に客は誰もいません。


 その店主も注文した紅茶をテーブルに届けた後は奥に引っ込んでしまいました。愛想のない方ですね。でも変に話しかけて来ないのは好印象です。


「えへへー。師匠の匂いですー♪」


 席に着くや否やリベアはわたしの横でベッタリさんになり、前の席に座るソフィーもなんだかムッとした顔をなさっていました。一体どうして??


 次いでフィアからは壊れた魔道具を渡されます。


「すみません。せっかく頂いた魔道具を壊してしまいました」


 ぺこりと謝るフィアに、ソフィーも罰が悪そうな顔をされていました。


 なるほど。先程成果はあったかと聞いた時、変に間が空いたのはこういう事だったんですね。


「ほうほう」


 魔道具を確認すると、ボロボロになるまで活用された跡がありました。


「消耗品ですから気にしないでください。それに製作者として、こんなになるまで使ってもらえたという気持ちの方が大きいです。さ、お互い集めた情報の交換といきましょう」


「そうね。始めましょうか」


「えへへー師匠」


「…………」


「へぶっ!」


 浮かれすぎの弟子には魔法で鉄槌を下します。大賢者は切り替えが大事なのです。


「まず私たちが最初に向かったのは……」

「はいはい」


 その後、わたしの口から出たのは――『すごい』という感想だけでした。


 弟子もソフィー達の報告を聞くにつれ、あんぐりと開いたお口が閉まらなくなっているようです。


「この短時間でよくそこまでの情報を……情報の信憑性もさることながら、状況を踏まえて次の場所を予測するその洞察力も中々のもの」


 褒め称えてあげると、彼女は鼻の下を伸ばして偉そうに胸の前で腕を組みやがります。


 胸の自慢でしょうかね? ぅん?


「ふん。商家であり、貴族世界で生きている私をあんまり舐めないで頂戴」

「流石はお嬢様です! 見事な交渉術でしたよ」


「貴方だって、十分手伝ってくれたじゃない。私の相棒として申し分ないわ」


「そんな、相棒だなんて……恐れ多いですよ」


「やっぱり凄いや。ソフィア……ううんソフィーは」


 店主も奥に消えて、他に誰もいないのでいいですよね。


 わたしは彼女の事を少々過小評価し過ぎていたのかもしれません。ソフィー・グラトリアという少女は将来きっと大物になります。大賢者の正統後継者が言うんです。間違いありません!


(こういう人が、リベアの側にいてくれると安心ですね)


 何かを察したリベアがこちらに目を向けニコッと笑います。まるで私には師匠しかいませんよ? と言われているようで、少しむず痒い思いを覚えました。


「問題なさそうですね」

「そうね」


 彼女達が集めた情報とシーヴ婆から聞いた情報を照らし合わせます。


 夫婦の現状に細かな違いはあるものの、所在地は全く同じでした。なのでこの情報が間違っている可能性は低いでしょう。


「確認も取れた事ですし、早速行きましょうか」


「ええ、早く行くに越した事はないわ」


 それから私たちはシーヴ婆に言われた場所にてくてくと歩いて向かい、一軒の古民家を発見しました。


 近くまでやってくると、家の庭から話し声が聞こえてきます。


「お父さん。お母さん見てみてー! 変な虫さん捕まえたよー!!」


「またこんなに泥だらけになって、やんちゃな子ね。貴方に似たのかしら?」


「いや、これは幼少期のお母さんにそっくりだよ」


「あら。そうだったかしら。昔のことは……そう、忘れたわ」

「……そうだね」


 そんな会話が聞こえてきました。


「師匠、あれ……」

「どうやら夫婦にはお子さんがいるようですね」

 

 民家にいたのは、物腰柔らかそうな中年の夫婦と7、8歳とおぼしき女の子でした。

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