第105話 変わりゆく関係
「やりましたね師匠! きっとソフィーさんも師匠が真面目に働いた事にびっくりすると思いますよ!!」
行きとは打って変わって、帰り道のリベアの顔はそれはそれは晴れ晴れとしたものになっておりました。
「えぇ……わたし、
「はい! 家にいる時は生活力皆無ですし、基本的に面倒を見てあげる人がいないとダメダメですけど、ここぞという時にカッコよくなるのがうちの師匠です!! あ、私はどっちの師匠も素敵だと思っていますよー」
でへへーっと弟子はだらしなく笑い、わたしの腕を取って胸にむぎゅっと押しつけてきます。
むぎゅってなんですか、むぎゅって! わたしのじゃそんな効果音付きませんよ!?
「――っリベア、人前でくっつくのはあまり……ああもういいです。これからは好きにしてください」
「いいんですか!? 師匠大好きです!!」
その屈託のない笑みに嘘は見受けられません。敵いませんよ、ほんと。
「はいはい。わたしも好きですよリベア、
『弟子』という単語を付け加えるのを忘れない、小利口な師匠。
恋人として許したら最後。この子に骨の髄まで愛される気がしましたから。
「むぅ……やはり中々お堅いですね師匠。でも絶対落としてみせますよ!」
ふんふんと意気込むリベアを見て、わたしは心の中でため息をつきます。
(もう殆ど落とされかけてるんですがねー)
この子の笑顔が曇りそうになった時、わたしは突き放す事が出来ませんでした。
今は師弟関係を築いているので四六時中一緒にいますが、正直わたしと彼女とでは釣り合いません。こんなダメ人間よりもっといい人がいる筈です。
(愛弟子には絶対幸せになってもらいたいですから)
ふとそんな考えが浮かぶと、我が師匠も弟子に対して心の中では同じ事を考えていたのでは? と思ってしまいます。
「ふむふむ……勘弁です師匠――」
ですが記憶を思い返しても、辛い修行の日々ばかり流れてきました。
やっぱりいつ思い返してもあの人は暴君でしたね! 主にわたしに対してだけ!!
「もう師匠っ! こっちを見て下さいよ!!」
「ほえ?」
その直後、わたしのほっぺたに柔らかいものが触れました。
キスです。
それがリベアによって行われた行為だと理解するのに、それほど時間はかかりませんでした。
「ほあっ!?」
片腕をお胸で拘束させられていたので、大きな反応は出来ませんでしたが、弟子から見てとても初心に映ったのでしょう。
「あ、いい反応をどうもありがとうございます」
悪戯を成功させた子供のように、弟子がニタリと口角を上げました。
「な、なにをッ……!?」
咄嗟に口づけされた箇所を手で押さえてしまいます。弟子はふふんと不敵に笑った後、すりすりと肩に顔を擦り寄せてきました。
「だって師匠。これだけ好きって言ってるのに、全然私の事を見てくれないじゃないですか! ……だから、私と二人きりの時は、私の事以外考えないで下さい。師匠の事ですから、どうせシャルティア様との思い出を思い返されていたんでしょうけど、今隣にいるのはシャルティア様ではなく私です! 師匠の事が大好きな、あなたの愛弟子ですよ!!
その言葉にハッとなる一人の魔法使いがいました。その名はティルラ・イスティル。次世代の大賢者です。
「自分の弟子に言われてしまうとは……リベア、これからは嫌だと言っても構いまくりますからね?」
わたしの中で何かが吹っ切れました。
これはもう、ただの師弟関係では終われそうにありません。
「はい!! むしろどんと来いって感じです!」
胸を叩き、嬉しそうに笑う彼女はさらに腕の拘束を強めました。
「師匠、大好きですぅー!!」
あ、やばい。腕にお胸の感触が……わぁ、柔らかい。腕が谷間に挟まるってこんな感じなんですねー。
世の中の男性が恋人を求めるのも分かる気がします。包容力のある女性って、同性からしても魅力的ですから〜。
ほわわわーっとした幸せな何かに包まれる大賢者なのでした。
◇◆◇◆◇
――スラム街 特別区画――
ティルラが立ち去った後、老婆は一人煙管を吹かしていた。
「新生大賢者誕生まであと数ヶ月って所かねぇー。まったく、時が過ぎるのは早いもんだよ。そうは思わないかい――シャルティア」
空を見上げ、先に逝ってしまった旧友の顔を思い浮かべる。死んでしまった彼女とはもう肩を並べて酒を酌み交わす事も出来ない。
数少ない飲み仲間であったシャルティアは、協会を追い出されたシーヴ婆の拠り所でもあった。
彼女だけが追放された自分の事を忌避せず、正面から話を聞いてくれたからだ。
「ふぅ、あんたの弟子はちゃんと
白い煙を口から吐きながら、シャルティアが手塩にかけて育てた
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