第104話 情報をゲットしました!

「その夫婦の事ならよーく知ってるよー。なんせうちの常連様だからね〜ひっひっひー」


 夫婦と婆……予想外の繋がりでしたが、これはもしやビンゴなのでは? 


 やったね、姫様のご依頼完遂ですよ!


「詳しく教えて下さい」


「そうさねー。あの夫婦はうちの上客で年に2回ほど訪ねてくるよ。依頼はが今どういう生活を送ってるのかってね。あたしの部下は王宮にも潜伏しているから、お転婆な第二王女様の情報を集めるのは簡単な事さ」


 自分達の子じゃないのに殊勝なこったよと、婆は感心した様子で空の瓶をわたしの前に置きます。


「は?」


「あー少し喉が渇いたねー。何か飲みたい頃合いだ」


「……」


 続きを聞きたきゃ金を寄越せという訳ですか……この人絶対夫婦に感心なんかしてませんよね? 


「毎度。ひひっ」


 チャリンチャリンと銀貨が複数枚瓶の中に落とされます。14枚目を入れてようやく喋る気になったようです。


「あわわ……一枚、二枚、三枚、お金がたくさん」


 庶民の約4ヶ月分の給料が目の前で消えるのを見て、弟子は軽く目を回しておりました。

 

 世の中、お金ですからね。ふふふ。

 

「……それで夫婦は今どこに? まさかお金を払って知らないって言うんじゃないですよね?」


「勿論知ってるさ。夫婦の事もあんた達のこともね――ロフロス村出身の村娘リベア・アルシュンに商家貴族のソフィー・グラトリアとその専属メイドであるフィア・テイラー。大変だったねー来てそうそう変なのに絡まれて。弟子を守れて良かったじゃないかティルラ」


 ここにはいない二人の名前を口にします。


 リベアのフルネームを出した事からも分かる通り、シーヴ婆は今わたしとの交渉で優位を得ようとしています。

 自分の思い通りに事を運ぼうとしているのでしょうがそうはいきません。


 あと何気にフィアの家名を聞くのは初耳ですね。


 彼女は口減らし……実の親に捨てられた身です。意図的に家名は伏せていた、もしくは人に家名で呼ばれたくなかったので最初からフィアとだけ名乗っていたのでしょう。


 どんなに酷い両親でも、死ぬまで親子の縁は切れないと言いますし。


「むっ、聞き捨てならないですね。その様子だとリベアが襲われていた事も知っていたみたいじゃないですか。もしかしてあいつらとグルです?」


 問われたシーヴ婆は、やれやれといった様子で首を横に振りました。

 え、普通疑いますよね?


「そんな訳ないだろう。あんなのと一緒にしないでおくれ。ここはあたしの庭みたいなもんなんだから何が起こっているのかを把握しているのは当然さ。それに後片付けはこっちが受け持ったんだから感謝して欲しいくらいだよ」


 彼等の始末と聞いて思い浮かぶのは魔法を使える親切なおばあさんの顔。妙に手慣れていたのはそういう事でしたか。


「後片付け……成る程。あのおばあさんはシーヴ婆のお仲間でしたか。それならタイミング的にも納得です。でもわたしが間に合わなくてリベアが大変な目に遭っていたらどうしていたんですか? まさか自分だけはお咎めなしとでも?」


 至って真面目なお話の筈なのに、婆はぷはっと吹き出しやがります。


「端からあんたが間に合わないとは思っていないよ。自分の可愛い弟子の事だからね。それにこっちは命懸けの商売をしてるんだ。力のない奴に下手に情報を流して捕まり、そいつが口を割っちまったらあたしの身が危ないからねぇ」


 シーヴ婆がけたけたと笑って言います。一応この人、協会に睨まれている筈の人間ですが、ここまで好き勝手して捕まらないのですから魔法使いとしても一流なんでしょうね。


「はっ。あなたが捕まる所なんて想像出来ませんよ――ですがわたしの友人、又は周囲の人達に何かしようとするなら秒でしに来ますからね」


 声に合わせて婆の頭上に白い腕がニュッと現れ、文字通りパーンと手を合わせます。リベアが「ひゃっ!」と身体をゾワゾワさせ、シーヴ婆が苦笑いで応えます。


 どうやらリベアにお仕置きをした事も知っているようです。


「怖いねー全く。あんたの庇護下に置かれた者が羨ましいよ。今回はあたしの負けだ。教えてあげようじゃないか。正規の報酬でね」


 どこまでもがめついババアでした。


「結局お金は取るんですね……幾らです?」


 今日一日で懐がだいぶ寂しくなってしまいましたね。また適当な物やアイディアを売ってソフィーから稼ぎましょう。


「そうさね。あいにく金はいくら積まれても教える気にはならないねぇ――借り一つでどうだい?」


 あれとあれを売ろうかなーなんて考えていたら、婆がとんでもない事を言ってきました。


 正直この人に借りを作るのは怖いです……しかし背に腹はかえられません。また臍を曲げられても嫌ですし。


「……あなたに借りを作るのは癪ですがいいでしょう」


「いいんですか師匠?」


「おかしな事はさせられないと思いますので。契約書も作りますし」


 魔法で作られた誓約書にサインし、婆が自分の血を一滴垂らします。


「これで契約成立だね。よし耳を貸しな。あーいや実際に耳を寄せなくていい。今から魔法で直接あんた達に話しかけるからね」


 シーヴ婆は俗にテレパシーと呼ばれる伝達系の魔法を行使します。盗聴対策でしょう。


 それからわたし達は夫婦の現状と住んでいる場所を聞き、調整は後日とした上でスラム街を後にするのでした。

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