第81話 私のパートナー
わたしは三人に魔道具の使い方を一通り教えた後、倉庫代わりになっている部屋で目的の物を探していました。
「うぅん、ないなぁ……この辺に置いたと思ったんですがねー」
暫く探してようやく見つける事が出来ました。それは国が正式に発表した資料をまとめた分厚い一冊の本です。二年に一回王都で販売されます。ちなみにこれが結構お高いです。
「うえっ、けほっけほっ」
屋敷から持ってきたやつなので埃被ってますし、年度がちょっと古く最新のものではないですが、目次をみて知りたい情報は書かれているようだったので一安心。
「このページは違う……ここでもない……あ、ありました!」
そこには数多くの全属性魔法の使い手達の名前が書かれており、『シャルティア・イスティル』。わたしの師匠の名も書かれておりました。
「一応、嘘ではなかったんですね」
師匠の嘘――正確に言えば嘘ではないのかも知れません。師匠の時代には確かに全属性魔法の使い手が多くいたと記録には残っているようですから。
ですが、少なくともわたしからすればそれは嘘の範疇です。
素直な女の子を騙すというのは罪な事ですから。
え、素直な女の子が誰かって? そりゃわたしですよ。
そこから更にページを捲ると戦死者リストなるものが出てきました。これは魔族との戦いの記録です。
「前線で戦っていた全属性魔法の使い手の殆どが戦死、又は行方不明に……。戦いで生き残った人達も瘴気に侵されて魔王が倒され戦争が終わった後、一年も生きられなかった。師匠はその数少ない生き残りというわけですか」
この国にもつい何十年か前までは100人以上の使い手が在籍していたというのに、その数を減らしに減らして今では0。……この本に記されていない、わたしを除けば。
まあ後天的に使えるようになるものではありませんし、元の才能が割合としては大きいですからね。
いくら全属性の魔法が使え、大賢者の正統後継者であるわたしでも苦手な魔法の一つや二つだってあります。
(一番嫌なのは結婚を強制される事ですかね……)
昔の記事にも書かれていますが、たとえ全属性魔法の使い手同士が結婚し子供を産んだとしても、その子供が全属性の魔法を使えるとは限らないとの事です。
あくまでその可能性が高くなるというだけみたいですね。
(そういえば師匠が毎晩密かに書いていた手記があったような……師匠が生きていた頃は覗き見しようとして部屋の外に放り出されるのが常でしたが、今なら読めるのでは!? というか読むなら死んでからにしてくれって言ってましたし!!)
そう思ってガサゴソ漁っていましたが見つかりません。オルドスさんにうるさく急かされながらも、あれはしっかり持ってきた筈なんですがね。
「うーん……ないですねぇー」
次の棚に手を掛けた時、扉が勢いよく開かれました。あ、眩しい。
「――師匠決まりましたよって、なんですかこの部屋の惨状は!? せっかく頑張って綺麗にお片付けしてたのに……ううっ、酷いですよぉ」
床一面に散らばった物の数々を見て弟子は膝を落として泣き崩れます。気が付けば綺麗に整理整頓されていた筈の部屋は足の踏み場もありませんでした。
少々探し物に夢中になり過ぎてしまいましたね。
「すみません。片付けはわたしも手伝うので許してください」
「あ、いえ。それはいいです。師匠がいると余計に散らかりますから」
「あ、はい。そうですか……じゃあ役立たずの師匠は部屋の隅で蹲ってますね」
「部屋の隅にいられても困りますので、片付けをする時はこの部屋から出ていてくださいね」
「はい……」
一瞬でスンッてなった弟子に真顔でそこまで言われると、師匠も悲しくなっちゃいますよ。
ちなみに何を決めてもらったのかというと、チーム分けです。
魔道具は二つ。よってチームを二手に分ける事になり、そこでわたしと誰が組むかで揉めました。
リベアは
別にそんな危険な所に行く予定はないんですけどね。まあ情報集めの為にスラム街には立ち寄るかも知れませんが。あそこには師匠の知り合いの情報屋がいた筈ですから。
わたしの作った魔道具も一切の痕跡なしに探している相手を見つけられるような優れものではありませんので。
そんな二人にフィアが乗っかり、『ティルラ様直伝の護身術を学びたいですね〜』とか言って、わたしの腕を取り自身のお胸に押し付ける始末。
あれはすごく柔らかかった……じゃないです! とにかくそれで色々揉めて話し合いの時間をとりました。
最悪わたし一人で、残りの三人が組めばどうかと提案しましたがそれはリベアに強く却下されました。
「それで、どうなったんです?」
「はい! 私が師匠と、ソフィーさんがフィアさんと一緒に行動する事に決定しました!!」
バンザーイと手を挙げ、リベアは全身で喜びを表した後、わたしの方に擦り寄ってきます。
「嬉しそうですね。あんなに揉めてたのにどうやって決まったんですか?」
「それは魔法でちょっと脅して……いえ、頑張って説得しました」
なるほど、力技でしたか。やっぱりこの子は怖いです。
「とりあえず二人を待たせているので行きましょうか」
「はい!」
そうしてわたしは散らかった倉庫の扉を静かに閉め、その場を後にするのでした。
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