第79話 全属性魔法の使い手は超稀少みたいです

 え、なんですか? 胸が成長してない? いやこれでもこの村に来てからちょっとは大きくなってるし、努力もしているんですよ? 


 リベアに頼んでお胸に栄養のいいものを毎日食べてますし、最近は早めに寝ることも心がけています。


 よく胸は自分で揉む、又は好きな人に揉んでもらえれば大きくなると言いますが、惨めな気持ちになるのでそれはやってません。好きな人だって……いませんし。


 リベアは『胸を揉んで欲しい時はいつでも私に言ってください! 私、師匠のために頑張りますから!!』などと言っておりましたが、あれは完全に下心丸出しでした。


 あとなんか知りませんけどソフィーはこの村で暮らすようになってから、ぬけぬけと成長の兆しが見えますし、リベアはまだまだ成長期でフィアは言わずもがな大きい。


 一番努力している筈のわたしだけが仲間外れという結果に、ううっ……。


 まあいいです。胸の話なんて。今は魔道具の話です。わたしは同じ魔道具を二つ作りました。これは二人一組になってそれぞれ別々に探す為です。その方が効率がいいですから。


 本当は一人一台作れれば良かったんですが、時間がなかったのと、全員別行動していた場合、もしも何かあった時、信頼できる護衛がいなくなってしまうからです。


 ソフィーは言わずもがな、リベアもまだ盗賊などに襲われたりしたら対応が出来ないでしょう。フィアは主人を守るために護身術を嗜んでいると言っていましたが実際どの程度出来るのかは分かりません。


(今度、魔法なしの手合わせでも行いましょうか。それで筋が良ければ二人ずつで組み、ダメならわたし一人と三人に分けましょう)


 それで肝心の新作魔道具に対する三人の反応はというと――


「……確か別々の魔法を組み合わせて何かを作るのってすごく難しいんじゃなかった? 私は魔法が使えないからよく分からないけど」

「その認識で大丈夫ですよお嬢様。こんな短期間で目的に合わせた魔道具を複数作れてしまうティルラ様がおかしいんです」


「……あの、師匠。師匠が非常識な事は分かってて今まで特にツッコんでいませんでしたが、やっぱりおかしいです」

 

「……えっと、どこがおかしいんですか? 私は一応常識人と自負していますけど?」


 わたしは何もおかしい事をしていません。普通の人よりちょっと出来る事が多くて、新しい物を作る事が得意なだけです。


「師匠は、何気なく色々な魔法を行使してらっしゃってますが、もしかして全属性の魔法が使えるんですか?」


「ええ、それが普通じゃないんですか?」


 師匠も使えていましたしね。オルドスさんは……うーん、瞬殺しちゃったから炎魔法を使うことしか分かりませんが偉い人だし、たぶん使えるのでは? 知りませんけど。


「……ありえないんです。私は光魔法は使えますが、その代わりその反対属性である闇魔法が使えません。師匠は使えるんですよね?」

「はいもちろんですよ。ほらこの通り」


 左手に光球を一つ作り天井辺りに浮かび上がらせます。その光球はたった一つでも小さな部屋を明るくさせるのには十分な照度を持っています。


「ほい」


 右手には暗球を作り、同じように浮かび上がらせるとリビングは程よい明るさになりました。そう丁度光球を作り出す前の明るさに。


 ちなみにこの球はほっといても勝手に消えます。魔力を込めた分だけ持ちますが、今回はちょっとしか込めてないので5分程度で消えるでしょう。


 実践し終えると、リベアが先生のように頷きます。


「では今度は私が」


 リベアは先程やったように光球を作り出します。わたしより少し小さいですね。胸は大きいのに。


「うーん、うーーん……!」


 その後はどんなに頑張っても闇魔法の初級である暗球を作り出す事は出来ませんでした。


「ふぅ。このように得意な属性魔法と反対の属性魔法は使えない人が多いんです」

「へえ。そうなんですか。わたしは苦手な魔法とかなかったので全然気にしてませんでした」


「むむっ、それはそれで羨ましいです。でも師匠。なんでそれくらいの事知らないんです? ちゃんと本を読んでないんですか? 師匠からもらった本にそう書いてありましたよ」


「あ、そうでしたか。まさか弟子から教わる事になるとは……いや、実を言うと魔法に関しては師匠に手取り足取り教えてもらっていたのでそういう基礎的な知識は習ってなかったんですよ。師匠に教わる魔法は実践向きの魔法が多かったですし、師匠もわたしに基礎は必要ないと判断したんでしょう」


「……まあそれなら、納得です」


「リベアには基礎から教えたいと思って、屋敷から持ってきた教材を渡したんですよ。決して教えるのがめんどくさかったからとかじゃありませんからね」

「分かってますよ、師匠!!」


 あら素直でいい子。ソフィーもこんくらい素直にしていれば……ひゃっ、睨まれた。怖いよー。


「でも師匠、全属性の魔法が使える人はほんとに稀で希少なんですよ」

「んー。まあなんとなくそんな気はしてました。師匠ってそういうところが結構ありましたし」


 生前、師匠に口止めされていたのは【次元収納】などの特別な魔法で、全属性魔法の使い手であるという事は言っても問題ないという事でしたので普段からあけっぴろげに使っていました。


 三人とも、もう見慣れていたと思っていたんですけどね。


 ここに来た当初は隠れて使う事も考えましたが、そうすると逆に面倒だったのでやめました。


 確かに全属性の魔法が使える事は珍しいみたいですが、師匠という前例がいましたし、わたし以外にも全属性魔法の使い手は沢山いるでしょう。


 わたしは内心本当にそう思っていました。リベアの次の言葉を聞くまでは。


「はい。だって今確認されている全属性魔法の使い手はなんですから」

「……はい?」


 思わず間の抜けた声が出てしまいました。


 今のはきっとわたしの聞き間違いでしょう。全属性魔法の使い手なんて師匠の現役時代は腐るほどいたってあの人言ってましたし。


「いえ、嘘じゃないですよ。こういうのは国同士が協力して調査してちゃんと正式に報告されてますから。今現在存命する魔法使いの中で、全属性の魔法が使える人はこの大陸全土に三人しかいません」


「……ふぁ? まじですか?」


「大マジです。もう一つ付け加えるとこの国には師匠の他に全属性魔法の使い手はいません。師匠は非公式ですけど、王様に認められたら正式に世界で四人目の使い手。同時に王国唯一の全属性魔法の使い手になりますね♪」


 自分の師匠が、世界で四人目となる全属性魔法の使い手として持ち上げられる。

 その事実にリベアは嬉しそうにはにかみ、こちらを向いてえへへっとだらしなく頬を緩ませます。


 そんな弟子を見ながらわたしが思っていた事は一つ。


「――なんで……なんで全属性の魔法が使えるのが私しかいないんですかっ! おかしいです!! 才能の神様に抗議してやりますっ!! 師匠のばかぁーー!」


 また一つ師匠シャルティアの嘘が発覚しましたとさ。

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