第20話 新作魔導具
「さて、今日も研究に勤しむとしましょうか」
あれから一週間が経ちました。
今、家に居るのは私一人です。リベアは夕食のお買い物。ソフィーとフィアさんはお仕事の商談に向かっています。
(家出中というのに、仕事熱心な事ですねー)
ソフィーとフィアさんは、仕事の為、昼間はほとんど家にいません。
商談をしているのはソフィーですが、フィアさんはそのお付きをしています。彼女はお嬢様の専属メイドなので、主人について行くのは当然ですね。
◇◇◇
「あなたに貸しなんて作らないから!」
「はぁ」
ソフィーは家を出発する時、ビシッと人差し指を立てて、私にそう言ってきました。
「食事代だけは絶対返すから」
彼女達は居候という事なので、ばりばり働いて、食費だけでも返上するおつもりのようです。
だから、その申し出をありがたく受け取ることにしました。
「ソフィー。なんなら宿泊代から何まで、全部返してもらっていいんですよ?」
「それは、あんたにこれまで掛けられた迷惑料から、差し引いてるから」
「その節はすみません」
テヘッと舌を軽くて出してみます。可愛く映っているでしょうか?
「は? きも」
めちゃくちゃキモがられました。
リベアがやるとオッケーなのに、私はだめだとか完全に贔屓です。
◇◇◇
そんな今朝の出来事を思い返しつつ、私は気怠げに欠伸をして、うーんと伸びをします。
(ぶっちゃけ、お金なんて返さなくてもいいんですね。彼女には、ずいぶんお世話になっていた時期もありましたし)
彼女は借りたものは絶対に返す主義です。それがどんなに小さな事であっても、一切妥協しません。
私から言わせれば、いちおう、友達なんだし、細かい事はいいかなーって感じなんですがねー。
「ま、お金くれるなら、なんでもいいですけどねー」
ちなみにお金の管理は、全てリベアに任せています。私が面倒くさいとかじゃありません。これは勉強の為です。
帳簿をつけるのも、算術の勉強にはもってこいですから。
将来必ず役に立ちます! と毎回言い聞かせています。
「私も、もっと頑張らないといけませんねー」
私は「ふわぁー」と欠伸をしつつ、窓から手元に視線を移します。紙類でいっぱいでした。
これは夢ではありません。現実です。
「ふむ。ねみぃですね」
あったかくて、今にも寝ちゃいそうです。でも我慢です。
村の大工さんにオーダーメイドで作ってもらった机の上には、よく分からない素材やその名前と特徴が羅列した紙が
「一つずつ終わらせていきましょうか」
ここに置かれている素材の殆どは、私が自分で集めてきたものですが、ソフィーがくれた物も少なくありません。
あのどちゃくそ重い荷物の中には、私へのプレゼントが入っていたのです。それなら、荷物運びを手伝ってやった甲斐があるというもの。
「ええっと……これがコレで……それがアレで……」
紙面の上から下まで、びっしり素材の名前と特徴が書かれており、そのチェックを一つずつ行なっていきます。
地味な作業ですが、これが意外と重要な作業なんです。
「……よし。これで新しい素材の名前と特徴は全部覚えました。あとは適当にやってれば、完成するでしょう」
私はてくてくと自室から地下室へ移動します。
自分で言うのもなんですが、私は一度覚えた素材は絶対に忘れる事はありません。
この記憶の良さは、師匠に「気持ち悪い」と言わせたくらいです。
「あれ? いつも言われてた気がしますが……まぁ、細かい事は気にしなくていいでしょう」
今では何百種類の素材を使い分けて、作りたい調合品を作れるようになっています。
最近は、弟子とお世話になっている村の方々用にレシピ本を書いてみたんですが、これがなんとも好評で、ソフィーからは商品化しないかと言われています。
ソフィーには気が向いたら、とだけ答えておきました。
彼女には悪いですが、今の私にはやらねばならない事があるのです。
「効果を永久に持続させるのは、案外難しいものですね」
私が作り出そうとしているのは、ある特殊な噴水型の魔導具です。
元となる噴水は、近くの町の工房に設計図を渡して、すでに制作済みです。
「でてこい!」
アイテム袋には、入らなかったので、【次元収納】から噴水をどーんと音を立てて、取り出します。
何故、噴水型にしようと思ったのかというと、単純に使い勝手がいいと思ったからです。
「あと一息ですね」
地下室を掃除した後、リベアと一緒に始めた研究はほぼ完成していました。
元々、完成しかかっていた研究だったので、そこまで時間もかからず、仕上げにまで持ってこれました。
今日は結構難しい事をするので、まだリベアに任せる事は出来ません。なので安全の為に、日中は買い物に行ってもらいました。
「さぁ、いっちょやってやりましょう!!」
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