第21話 これは……魔導機器ですね
この新作魔導具は、噴水から湧き出る水を魔法瓶の効能と同じに効果範囲を広くした改良版でした。
これを村の中心に設置すれば、村が良い香りに包まれたり、心安らぐ空間を提供する事が出来ます。
(それに特別な物が一つあるだけでも、村の活性化に繋がります)
現在、この村の年齢層は年寄りが多く、若い者が少ないという、過疎地域の典型的なものになっています。
若い人が王都などに憧れて行くのは分かりますが、大抵は酷い目に遭って帰ってきます。
王都なんて、うす汚い人達でいっぱいですからね。
それでも中には良い人を見つけ、家庭を築く人も少なくありません。
稀に実家に戻って、そこで暮らすという人もいますが、殆どの人はそのまま王都に残って生活を続けます。
なので、村の人口は減り続ける一方なのです。
私はこの村を廃村にはしたくありません。
お世話になっているし、師匠との昔の思い出が多少なりともありますから。
「……飲めない事はないですけど、味は普通の水と変わりませんね」
でも魔法瓶は薬みたいな物なので、飲み過ぎには注意です。どんなに良い物でも、飲み過ぎれば毒になりますから。
「時間で、効果が発揮する仕様にしましょうか」
とりあえず、朝、昼、晩に魔法瓶の効果が発揮すればいいでしょうね。
「あとは、もうちょっとデザインに拘りますか」
細部のデザインは、塗りや染めが出来る様になっているので、女子力の高いソフィー達に相談する事にしました。
魔導具自体は、色んな魔法使いが作っているので珍しい物ではありませんが、永久に効果を発揮続ける魔道具はまだこの世に存在しません。
だからいくら天才の私でも、永続的に動く魔道具を一から作るのは難しかったのです。
「で、す、が!」
それでも、私と師匠が長年研究を続けていた成果は、私の事を裏切りませんでした。
研究の資料は全て完成したので、あとはこれを見て、実際に魔術刻印やら
「ふむ、こんな所でしょう」
創造魔法も駆使して、どんどん高度な物に仕上げていきます。
普通の人なら、何年もかかって行う作業を私はあっという間に終わらせていきました。
(ほんとに、あとちょっとで完成してたんですよね)
師匠は私以上に凄かったのですが、そんな二人が協力しても、永続的に動く魔導具を発明するのに数年の時を有しました。
その間に、師匠はぽっくり逝ってしまいましたし。
「効能は……とりあえず私の好きな物にしておきましょうか」
今回は試作品という事で、付与する魔法瓶の効果は二種類だけにしました。
(師匠もまさか魔王を倒す為の研究が、こんなものに使われる日が来るとは、思ってもいなかったでしょうね」
完成したのは、私の背丈よりも高い噴水型の魔導具でした。
中々の出来栄えです。早くリベア達に見せて、自慢したいですね
「ふむ。魔導具というには大き過ぎますね。これは
それにしても邪魔でした。地下室をめっちゃくちゃ圧迫しています。
完成した魔導機器は、最初に出した時と同じように、【次元収納】に仕舞っておきましょう。
「うっ」
入れた途端、身体が重くなった気がします。
「休憩、休憩ー」
椅子に座り、机にぐでーっと身体を押しつけます。
(次元収納は便利ですが、魔力を常時消費するから嫌なんですよね……)
ねむねむの頭で、師匠の言葉を思い出します。
――ティルラ、この魔法は絶対に人前では使うなよ!
(師匠。ちゃんと人前では使っていませんよ)
人前では絶対に使うなと師匠にきつく言われていたので、【次元収納】の存在を知っているのは、師匠のいない今、私だけです。
なんでも、数千年に一人使えるかどうかの神級魔法みたいなので、見つかるとやべーそうです。
「……ま、どうでもいいですけど」
また、欠伸が一つ出ました。
師匠との研究。
元々は石碑みたいな形にして、その石碑に特殊な文字列を書いて、結界的なものを張り巡らし、魔族の侵入を防ぐ役割として、師匠と私の研究は世に出回る筈でした。
結界の強さは捧げた魔力に比例します。なので、全魔法使いの魔力を注げば、魔王城ごと魔王をぶっ潰せる筈だったんですよね。
その前に、魔王が倒されてしまいましたけど。
ですが、今でも生き残りの魔族はちらほらいるので、需要はあるとは思います。
けれど、魔王が居なくなって弱体化した魔族達の相手は、たとえ村が襲われても、村人全員でかかれば一人くらいは倒せます。
ですから、世に出してもあまり必要とされないでしょう。
「さて、皆さんが帰ってくるまで、もう少し調整しておきますか」
休憩を終え、【次元収納】から再び
大きさが大きさなので、置くだけで部屋の半分以上が魔導機器に侵食されます。ちなみに今はまだ水は出ません。
(今回は小型に設計しましたが、将来、もっと大きな物を作るときは外で作った方がいいですね)
地下室が広くて助かりました。こんなの、普通の部屋なんかでは作れませんから。
「とりあえずここに触れれば……」
私はなんの気もなしに、魔導機器を起動させました。
「え――」
この時の私は、魔導具が完成して、完全に油断していました。
まさか、魔法の付与やその他の調整は完璧だったのに、私の魔力が強すぎる為、起動した瞬間、暴走するとは考えていませんでした。
噴水の先端部分が割れ、中から魔力が溢れ出てきます。
「ま、まあ研究に失敗はつきもの……え、ちょっ――ま……」
一度、身体から放出された魔力は、行使が不十分の場合、持ち主の身体に戻る傾向があります。なので、私の溢れた魔力は、一直線にこちらへ向かってきました。
なんて事を言っている内に、私はそのまま暴走した魔力の波に、呑まれていきました。
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