第17話 腐れ縁の友人
「ねぇリベアちゃん。こんな奴の弟子なんか辞めて
テーブルから身を乗り出したソフィーが、リベアに艶かしく近付きます。
「お金……」
リベアは『お金』という単語に、明らかに狼狽した様子を見せました。
「こら、私の弟子に馴れ馴れしく話しかけないで下さい! あとリベアも、お金に釣られてそんなに生き生きとした目をしないで!!」
「――はっ! ごめんなさい師匠。私は師匠一筋って決めてるんです。ソフィーさんごめんなさい、嬉しい誘いですがお断りさせて頂きます」
「そう、それなら仕方ないわね」
ソフィーは、スッとリベアから離れると、何事もなかったかのように紅茶を啜りました。妙ですね。
「あれ、思ったよりあっさり引き下がるんですね?」
「リベアは一応あんたの弟子みたいだし。私だって、無理に師弟の仲を引き裂こうなんてしないわよ」
「へぇ……ソフィーって常識あったんですね。少し見直しました」
「あなたは私をなんだと思ってるの?」
「毎度難しい注文をしてくる太客です。どうせ今回来たのもそれが目的でしょ?」
「ふん、よく分かってるじゃない。あと素が出てるわよ」
「おっと失礼、つい」
失言でした。
ソフィー相手だと、敬語が外れてしまいがちですね。
「あの、師匠。ソフィーさんとは一体どういう関係なんですか?」
リベアの前では敬語しか使ってこなかったので、私の聞き慣れない言葉遣いに、疑念を持つのは当然です。
そうですねー私と彼女の関係を一言で表すなら……。
「「腐れ縁」」
見事にソフィーと私の声が重なりました。
「腐れ縁?」
とはいっても、これだけではあまりに情報が少ないので、少し補足する事にします。
彼女の名前はソフィー・グラトリア。
グラトリア伯爵家の長女で、彼女の家系は主に商業を営んでおり、彼女の父は、結構大きな商会の会長も務めています。
「平たく言えば、私のお得意先ですね」
「ええ、ティルラはウザいけど、商品の品質はしっかりしてるし、頭も回るから、取引相手としては申し分ないのよね」
「ソフィー。一言余計です」
「あら、悪かったわね。でも本当の事じゃない」
「あの、ソフィーさんと師匠は、どんな取引をしているんですか?」
「フィア。持ってきて」
「はい、ソフィー様」
ソフィーの隣に座っていたフィアさんが立ち上がり、ガサゴソと荷物の中から何かを取り出し持ってきます。
「?」
「これよ」
それは四角い、それこそ闇取引で使われそうなケースでした。
フィアさんが持ってきたケースをソフィーが開けると、中には色とりどりの液体が入った瓶が入っています。
「一つ使うわよ」
「えっ、ちょ、ここで?」
私が止める間もなくソフィーがそれを一つ手に取ると、中身をぶちまけました。
液体は瞬く間に部屋中に広がり、部屋が暗くなります。
「ひっ! なんですか師匠! これ、どうなって――」
「リベア。怖がらなくて大丈夫ですよ」
「え」
「天井を……いいえ、空を見てください」
「そら?」
リベアが半信半疑に天井を見上げます。
「わぁー」
その場にいた全員が感嘆の声を上げました。
夜空に浮かぶ星空のように、天井一帯がきらきらと輝いているのです。
「おおっ……」
製作者である私も含め、この場にいた全員がこの光景に見惚れました。
「すごい綺麗ですね。師匠、こんな物を作れたんですか?」
「私も最初は驚いたわ。ティルラはその性格に反して、意外に繊細な物を作るのよね」
「だから一言余計ですって」
くすっと笑うソフィー。私もつられて笑ってしまいました。
自分でも、最初にこれを作った時は驚いたのです。こんな女子力高めの魔法瓶を自分が作れるとは思っていなかったので。
魔法瓶とは様々な良薬やハーブ、魔物から手に入る素材を使って作る特別品です。材料によって魔法瓶の効能は様々で、作ってみないと私にも分かりません。
完成した魔法瓶は、魔法を使えない人にも使えるので多くの人に愛用されています。特に冒険者の間では傷を癒す、『癒しの魔法瓶』が人気みたいです。
今回、ソフィーが開けた魔法瓶は『星空の魔法瓶』というちょっとお高いやつです。
「魔法瓶を作れるのは、魔法使いしかいないので、そもそもが高級品なんですよね。人によっては高値で売りつけてきますし」
それを私とソフィーが協力して安く売る事で、多くの人から人気を集め、結果的に儲かっています。私的にも、ちょうどいい小遣い稼ぎの感覚です。
「この魔法瓶、お客様にも好評なのよ。誰が作ったのかって毎回聞かれるくらいには」
「私の事、他の人には言ってませんよね?」
「もちろんよ。ちゃんと契約は守るわ。私だって良い取引先を潰したくないし」
「それなら良かったです」
私たちは、魔法瓶の効能が解けるまで、満天の星空を眺めていました。
「さて、魔法瓶がどういった物かも見た事ですし、取引内容の確認とでもいきますか」
「あのティルラ様。その前によろしいでしょうか?」
何か大事な事を思い出したように、フィアさんが、急に真剣な顔つきになりました。
「はい、なんですかフィアさん」
私はごくりと喉を鳴らします。
「なんでティルラ様は、自分の師であるシャルティア様のお葬式に
それは中々際どい質問内容でした。
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