第14話 ある雪の日の珍客
「ふぅ、なんとかやりきりましたね」
リベアのお母様が帰った後、私はほっと息を吐きます。
「師匠の名演技、とても参考になりました!」
「なんの参考にするつもりですかッ!」
くわっと目を見開くと、リベアが「きゃあ〜」と可愛らしく反応します。自分の武器をしっかり分かっているようです。
「まったくうちの馬鹿弟子は……」
小走りで逃げていくリベアの背中を目で追いながら、そんな事を考えていると、師匠との昔の思い出が思い出されました。
あれはある、大雪が降っていた晩のこと……。私が山奥での修行を終え、師匠の屋敷に来て、半年ほど経った日の事でした。
◇◆◇◆◇
「ふわぁー……ねみーですね。ししょーご飯まだですか?」
大きな欠伸をしつつ、下の階にいるであろう師匠に声を掛けます。
すると、なんとまぁ、師匠の仕事を甲斐甲斐しく処理していた有能で健気な弟子に向かって、怒声が返ってきました。
「うるせーバカ弟子。ちょっとは静かにしてろ!! お客様が来てるんだ! 冷蔵庫に適当なもん作っといたから勝手に食ってろ」
少しムッとしました。誰の代わりに仕事をやっていたと思ってるんですか? 労いの言葉一つくれてもいいと思うんです。
「…………よし」
怒られるのを覚悟に、私は客間に向かうことにしました。私は師匠の弟子なんです。相手が誰であろうと、挨拶はしておいた方がよろしいでしょうから。
――どうせまた、お国の偉い人がいちゃもんでも付けにきたんでしょうね。それかまた師匠に面倒事を押し付けにきた役人でしょうか……。どちらにせよ、厄介な事です。
てくてくと客間に向かいます。決して、私が師匠に構ってもらいたかったとかではありません。
『ぎゅるるるるー』
しかし、その途中で私のお腹が鳴りました。
「……先に腹ごしらえをしておいた方が良さそうですね」
腹が空いてはなんとやらという事で、くるっと反転して、元来た道を戻ります。
キッチンに向かい、冷蔵庫の前に立った私は、「うんしょ」と背伸びして冷蔵庫を開けると、お皿に盛り付けられた料理を見つけました。
(おお、美味しいそうですね。しかしこの冷蔵庫、やっぱり私には使いにくいです)
師匠の背丈に合わせているので、まだ子供の私には、背伸びしないと開けられませんでした。
まあ、ゆくゆくは師匠の背丈を余裕で越える予定なので、全く問題ないんですけどね。
「ふんふんふん♪」
仕事終わりに食べるご飯というのは、なんとも美味しいものです。これを食べる為に仕事を頑張っていたと言っても過言ではありません。
私はさすさすとお腹を触ります。もう大丈夫でしょう。お腹が鳴ることはありません。
お客様の前でお腹が鳴るなんて、恥晒しにも程がありますから。それに師匠にも、弟子にご飯を食べさせていないという噂が立ってしまうかもしれませんし。
「あ、でもいいですねそれ。もしかしたら、このブラックな環境が少しは良くなるかもしれません。今日の料理も普通でしたし、どうせなら料理人を雇ってくれればいいんですけどねー。それにこんなバカ広い屋敷を毎日清掃してくれる使用人も――」
「――ほう」
そこまで言って、私の後ろから酷く冷淡な声が聞こえてまいりました。
「し、師匠!? ……いつからそこに?」
慌てて振り返ると、そこには取って付けたような笑みを浮かべる師匠が立っておられました。
「お前が背伸びして冷蔵庫を開けようとして無理だったから、本当は椅子に乗って開けたのを誤魔化していた所からだ」
「いや最初からじゃないですか……。というか、いたなら開けて下さいよ。余計な労力を使ったじゃないですか」
「いや、それくらい自分でやれよ。あと私の料理を普通って言ったよな? 明日から毎食自分で作るか? あん?」
どこぞのチンピラみたいな絡み方をしてきました。そしてわざとらしく私の肩に手をかけて、ぎしぎしと力を込めてきやがります。
「い、いえ。師匠の料理は最高です! ほんともう、お代わりしたくなっちゃうほど美味しいんですから」
私はにっこりと笑って、すっごく美味しいーと言ってあげました。すると師匠は満足したのか、ぽんぽんと私の頭に手を置きやがります。
「それでいいんだよティルラ」
なんだが非常に腹が立ちましたが、今日はお客様がいるみたいなので、魔法を放つのはやめてあげました。
「それで、お客様というのは?」
「ああ、
「
入ってきな、と師匠に促されてリビングに入って来たメイド服姿の女の子は、それはそれは可愛らしい外見をした鈍色髪の少女でした。
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