第12話 アルシュン夫妻
娘が銀髪薫色の瞳を持つ魔法使いの少女、ティルラ・イスティル様の弟子になった。
ティルラ様は、
その話を聞いた時、ティルラ様がシャルティア様の後継者だという事は素直に信じられた。あの偉大な方の弟子を騙るなど、本物の弟子以外が出来る事ではないからだ。
普通の人なら、シャルティア様の弟子を名乗るなど、恐れ多くて出来るわけがない。
だから彼女は、本物の後継者なのだろう。
ティルラ様が羽織っていた外套には、シャルティアの紋章が描かれていた。
あれは確か、シャルティア様が着られていた外套に描かれていたものと同じだ。
(噂では弟子なんて取ってないって事だったけど、その時からすでに後継者がいらっしゃったのね)
大事な一人娘を知らない人の所へ送り出すのに、最初は抵抗があったけれど、シャルティア様の後継者様ならと、夫と相談して彼女の弟子になる事を許可した。
娘はティルラ様の事を深く慕っている様子だったので、あれで良かったのだろう。
それから一ヶ月が経ち、娘は今日もティルラ様と一緒に外出し、時には笑顔を見せている事に安心した。
(初めて会った時は内気な子だったけど、今はとても明るい子になったわ。思い切ってティルラ様に娘を託してみたけれど、正解だったみたいね)
近頃は毎朝早く起きて、近所へ挨拶をして回っている。昔のあの子を思うと、とても考えられない変化だ。
(ティルラ様が、あの子を変えたのね)
だけどリベアの笑顔が増えた事で、嫌なことも一つ増えた。
最近、私が通りを歩いていると、息子を持つ母親達が「リベアちゃんは、将来きっといいお嫁さんになるわ〜」と声を掛けてくる事が増え、その大半があからさまに媚を売ってくる始末。
身寄りのないリベアが、近くの森で彷徨っているのを発見し、村に連れ帰った時は余所者を連れ帰ってきたと私を責めてきたのはどちらだったろうか?
私はあの時の事を忘れてはいない。
だから絶対に、彼女達の所へはリベアを嫁に出さないと決めている。
そう、リベアは
夫との間に子供が恵まれなかった私達は、森の中で彷徨っていた当時5歳のリベアを介抱し、今に至るまで大切に育ててきた。
村の大半の人達は余所者を嫌い、リベアに嫌がらせをした。
私たちも全力でリベアを守ったが、守りきれたとは言えなかった。
それから5年後。
成長するにつれ、日に日に美人になっていくリベアに、村の少年達は昔、自分たちが嫌がらせしていたのも忘れ、しつこく言い寄るようになった。
そのせいでリベアは、男性を怖がるようになり、あまり外に出なくなった。
同年代の少女達も、リベアに嫉妬し、話しかけるものもおらず、リベアは村の子供達の中から孤立していった。
リベアがまともに話せるのは、私達家族だけだったのだ。
しかし今、リベアが魔法を使えると知った彼らはそれまでの態度とは裏腹に、急に媚びへつらうようになった。
それは余所者であるティルラ様に対してもだ。
あからさまに、リベアや私達家族に対する対応が柔らかくなり、多くの言葉を交わすようになった。
そしてこの一ヶ月間の間で、一つ事件が起きた。
「今まで村で育ててやったんだから、村に貢献しろ」そんな事を言う奴まで出てきたのだ。
これには流石に憤りを抑えきれず、村長に相談すると、彼はその日の内に村から追放された。
この村は余所者を嫌う者が多いが、それ以上に長年この村で暮らしていたリベアを同じ村人として認め、守ってくれる者の方も多いのだ。
リベアを出世の駒としてしか見てないのは、ごく少数の者達である。
村長から聞くところによると、この村で魔法使いが誕生するのは実に40年ぶりの事らしい。
魔法使いが一人村にいるだけで、国から援助金が入る。魔法を使える者というのはそれほど貴重な人材だからだ。
都市に住む大貴族でも、魔法を使える者は少ない。逆にリベアに村を出て行かれたら、援助金は入らない。
だから彼らは、どんなに情けないと分かっていてもリベアに媚を売るしかないのだ。
――人は、利益の為なら手段を選ばないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます