第11話 研究を再開します!

 丘の上に建つ我が家は花壇に囲まれていました。


 二階建てのマイホームは、リベアと二人で使っていても特に狭いとは感じませんし、むしろ広いとさえ感じます。


 二階には寝室があり、当たり前ですが別々の部屋で寝ています。


 屋敷に比べればこのマイホームは随分と小さくなっている筈なのですが、それでも広いと感じてしまうのは部屋が……というより家全体が散らかってないからでしょう。


(師匠と暮らしていた時は、歩く場所なんてないほど調合用の素材やレシピ本、実験に失敗して出来た変な薬やらなんやで床が埋め尽くされていましたから)


 今は綺麗好きなリベアが、毎日塵一つ残さず掃除をしているので、ここに越してきてからというもの部屋が汚れるという事はありません。


 というか、部屋を汚したら夕飯が雑草になります。それだけは嫌です。なので散らかしたりしません。もし不本意にも散らかってしまったら、出来るだけ自分で片付けるようにしています。


 今日はある事を思いつき、適当な部屋を探していました。


「この部屋ならいいでしょう」


 家には空き部屋が幾つかあるので、私は一階の一番端っこにある部屋を選びました。


 この部屋を選んだのには、ある理由があります。


「ええっと、確かここに……」


 カチッと音がして床下が開きます。そう、この部屋は地下空間に繋がっているのです。


「念のため、家の設計図を確認しておいて良かったです」


 地下に降りると、埃っぽくて思わず咳き込んでしまいました。


「けほっ、けほっ……これは後で掃除が必要ですね」


 魔法でパパパっと掃除してもいいんですが、魔法の使い過ぎ、頼り過ぎはよくありません。なので箒とちりとりを持ってきて後で掃除しましょう。


 とりあえず、屋敷から持ってきた道具や材料を並べていきます。


「こうして作業していると、師匠と二人で研究していた日々が懐かしいですねー」


 私はとある研究を再開してみようと思いました。


 それは私が屋敷で、趣味程度に進めていたものです。国の研究を優先していた為、全然進んでいませんでしたが。


「ですが今は、もう国の為に研究しなくていいですし、師匠に雑用で止められる事もありませんから」


 どうして研究を再開するかに至ったかというと、それはこのロフロス村のためです。


 この村の景観はとても美しく、自然豊かで、暮らしているとなんだが心がポカポカします。


 最近では、フィルレスム王国の風習である魔除けの花を村の人が、引っ越し祝いとして家の庭に植えてくださいました。


 余所者の私になんて優しいんでしょう。やっぱり私が可愛いからですかね?


 そんな可愛い私を住ませてもらっているこの村に、何か恩返しができないものかと考え、ある考えが浮かびました。


――そうだ。王都で魔王を倒すために練っていた研究成果をここで試してみよう。


 それは魔王が死んだ事によって、お蔵入りになった研究を再利用するというものでした。


「これが上手くいけば、他方から多くの人が集まり、ゆくゆくは調合した薬品を売って生活する事も夢じゃありません」


 世界征服を夢見る少女のように、無邪気な感じであくどい笑みを浮かべておりますと、後ろから突然声がかかりました。


「師匠、何してるんですか?」


「ひょわっ!? り、リベア!? いつからいたんですか?」


 後ろを振り返ると、そこには私の愛弟子が柱に寄りかかって立っていました。カッコいいです。


「この部屋ならいいでしょう、と言っていた辺りですかね」


「最初からじゃないですか……」


「最初からですけど……?」


 なんでそこで首を傾げるんでしょうか。ちょっと怖いです。


「師匠は今から何か作るんですか?」


「はい、ちょっと村の為に何か出来ないかと」


「……そうですか。村の為に……」


 リベアの顔が、ちょっと曇っているように見えます。


「あの、ひょっとして余所者の私が、村の為に何かするのは不味かったでしょうか?」


「……っ! ああ、いえいえ、そんな事は全然無いですよ!! たぶん村の人達も、みんな喜ぶと思います」


「それならいいんですが……」


 リベアの表情はまだ晴れていません。私は邪魔しないようにと、部屋から出ていこうとするリベアに声を掛けます。


「一緒にやってみますか?」


 そう声をかけると、ぱあっと表情が明るくなりました。


「はい! やってみたいです」


 そう言って、そそくさと私の隣に立ちます。


「えへへ、初めて師匠と一緒に何かしますね」


「そうですね。ちょっと難しいと思いますけど頑張って下さいね」


「はい! 師匠との初めての共同作業ですから!」


「では、まずはこの素材を……」


 弟子との共同作業が、この日より始まりました。

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