第8話 その弟子、最強につき
「あの……今なんと?」
「私をティルラ様の弟子にしてほしいんです!」
わぁっー。わたしの聞き間違いとかじゃなく、本当にリベアさんは私の弟子になりたいようです。
でも私、弟子を取る気なんてさらさらないんですよね。だって、弟子を取ったら色々と教えないといけないじゃないですか?
私はゆったり、だらだらとした生活を送る為に田舎に来たのです。
「すみません他を当たって下さい。私、弟子を取る気なんてさらさらないですから」
しかし諦めの悪いリベアさん。私の手を取ると、こうもおっしゃいました。
「掃除、洗濯、料理、何でもしますから!」
「え?」
まるで悪魔の囁きか何かでした。リベアさんの料理の腕前は分かりませんが、掃除、洗濯、その他もろもろをやってくれる……それは随分魅力的な提案に聞こえました。
なにせ、掃除や洗濯をしなくていいんですよ?
「何でも、と言いましたか?」
「はい!!」
にこやかな笑顔と共に、元気な返事が返ってきました。
「…………リベアさんを私の弟子に迎え入れる事を認めます」
「――ありがとうございます、ティルラ様!!」
「それとリベアさん。今後、私の事は師匠と呼ぶように」
「はい、師匠!!」
笑顔いっぱいのリベアさん。心の底から私の弟子になれた事を喜んでいるみたいです。
なんだか私も嬉しくなってきました。
「では、ご両親にもお話をしなければいけませんね。家まで案内していただけますか?」
「はいもちろんです。師匠!!」
師匠……改めて言われてみるといい響きですね。私の師匠もこんな気持ちだったのでしょうか?
「やった〜! 私、魔法使いさまの弟子になれたんだ〜」
リベアさんは、嬉しそうに鼻歌を歌いながら、足取り軽く自宅まで道案内を始めます。
なんかこう、自分より年下の女の子に師匠って呼ばせるのって背徳感ありますよね。
ちなみにリベアさんによって、地面が爆ぜた箇所は私が魔法で直しておきました。
「さて、行きますか」
この時の私は、目先の利益の事しか考えておらず、彼女を弟子にした事によって起こる事象を全くと言っていいほど考えていませんでした。
◇◆◇◆◇
「魔法使い様! このような辺境の村にお越し頂き誠にありがとうございます!」
「は、はぁ……」
ロフロス村の村長と名乗った老年の男性が、私の手を取ってぶんぶん振るいます。
痛いです。離してください。
村中の方々が、きらきらとした目で見つめてきます。私を神か何かと勘違いしてるのでしょうか?
「私、どちらかと言えば大賢者なんですがね……」
ボソッと呟いた私の呟きに、村長さんは答えます。
「魔法使い様も、賢者様も、この村にとって、偉大なお方には変わりありませんよ」
「えぇ……そういうものなんですか?」
「そういうものなんです」
「はぁ……」
たぶん今の私は、無理に笑顔を作っている事でしょう。こういう時は、本当の笑顔を思い出さねばいけません。
隣に立つリベアさんの顔を両手でつまむと、意味もなく、ぐにぐにしました。
「ひひょう?」
「笑顔って難しいですね」
「ひひょう……?」
リベアさんの瞳が、何やら酷く冷め切った所で、やめてさしあげました。現実逃避はこの辺にしておきましょう。これ以上やったら嫌われそうですから。
結論から言うと、私は村人総出で大歓迎に預かりました。リベアさんのご両親も娘が魔法を使えると知って、とても驚いたご様子でしたが、私の弟子になる事はあっさり了承してくれました。
私が分かりやすくローブをフリフリしたのが、あまりにも可愛かったからでしょうか?
「それは違うと思います師匠」
「…………」
ついでに、家まで貰いました。誰も使っていない建物があるからそこを使ってくれていいと。
家の中は少し汚いなと思いましたが、住めない程ではありません。私の魔法で数分の内にピカピカにしました。
汚物は消毒です。
村にいつまで居てくれるのかと聞かれたので、とりあえずリベアさんが一人前になるまでと答えておきました。
実際、この先どうするのかは全く考えていません。村の生活に飽きたら、どこか遠くに……目的のない旅に出るのもいいかもと思っている次第です。
村の人達の前で、こんな事おおっぴらに言えませんけど。だって彼等は、魔法使いが村に来てくれる事を待ち望んでいたみたいですから。
気が向いたら出て行くって、ちょっと心証が悪くなっちゃいますからね。
その日から、私とリベアさんの共同生活が始まりました。
「夕飯の支度と部屋の掃除終わりました。お風呂はもう少ししたら、沸かそうと思っているのですが大丈夫でしょうか?」
「はい、それで大丈夫ですよ」
なるほど。弟子がいるってこんな感じなんですね。たしかに楽をしたくなっちゃいます。
でもでもいけませんね。わたしは師匠のようなダメ人間にはならないと決めたんですから。
「師匠肩を叩きましょうか? それとも揉みましょうか?」
「どちらもお願いします」
――即答でした。
「はい!」
リベアさんは私の肩を軽く叩いた後、もみもみとしてくれます。お世辞などではなく、とてもお上手でした。
「…………」
わぁ……これは人をダメにしますね。思わず意識が遠のきます。
「足の方も、マッサージしましょうか?」
「お願いします」
――これも即答でした。
それから更に数日が経ちました。
この生活にも慣れてきた頃です。
私は、はたと気が付きました。
私の弟子、リベアさんはとても優秀な子だという事に。
おそらく魔法の才能もあります。教えてもいないのに、日常で便利な魔法を使っていましたから。
リベアさん曰く、私の持ってきた本を見て覚えたのだそうです。
まあ、なんにせよ、弟子が色々な意味で最強だと言う事が分かったので、私はのんびりしたいと思います。
この日から、私の、のんびり自堕落な生活が――
「師匠、この文字はなんと読むのですか?」
「師匠、この魔法をもっと詳しく教えて下さい!!」
「師匠、お客様がお見えです!!」
始まりませんでした。
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