第7話 弟子にして下さい

「うぇ……けほっ、けほっ……リベアさん大丈夫ですか?」


「魔法使いさん……私はここです」


 声は聞こえます。どうやら無事だったようです。しかしどこにいるか全く分かりません。


「うーん……どこでしょう?」


 手探りでリベアさんを探します。土煙で何も見えないので、転びそうになります。



 ふに。



「おや……? これは」


 なんだか、とても柔らかいものを掴みました。とりあえずにぎにぎしてみます。



「んっ……魔法使いさん、その、私の胸を触っています」



「そうでしたか。これは失礼しました」


 煙のせいで顔は見えませんが、おそらく赤くなっているでしょう。なにせ、私も口調こそ冷静ですが、めちゃくちゃ焦っていますから。


 彼女の張りのある胸から手を離し、粗末な自分の胸に手を置きます。


 やはり不健康な生活を送っていると、胸の大きさにも違いが出てくるのでしょうか? 彼女はこの空気の良い田舎で健康的に暮らしてきたから、この歳でこの成長なんですよね。ええ、そうに違いありません。


 私もここに住めば、きっとすぐに大きくなる筈です。


「あの魔法使いさん……煙で前が……」


「ああ、すみません。今、吹き飛ばしますね」


 風魔法は得意な方です。なにせ、家の周りの掃き掃除が面倒くさかったので、よく風魔法でゴミや落ち葉を拾い集めていましたから。


 「おりゃー」「とうー」と覇気のない声で、風魔法をぶちまけます。


 煙はすぐに晴れていきました。


「「あ」」


 煙が晴れた瞬間、私たちは同時に目を丸くさせました。


 なんと、先程までリベアさんが立っていた場所に、大きな凹凸が出来ていたのです。


「あの……もしかして私、結構危ない状態だったんじゃないですか?」

「……いいえ、その点は心配ありません。あれはリベアさんの魔力ですから、決して自分を傷つける事はありません」


「そう、なんですか……じゃあ魔法使いさんは?」


「今度からは、事前に言って欲しいとだけ言っておきます」


 あくまでクールに髪をすきます。爆発のせいで、くせっ毛がさらに酷くなってました。


「さ、さすが大賢者様の正統後継者様です!!」


「ふふん。もっと褒めてくれても良いんですよ。なにせ、私はティルラ・イスティルですから」


「ティルラ様!!」


 余裕な雰囲気を出していますが、実の所、ぎりぎりでした。あと少し防御魔法が遅れていたら、彼女を犯罪者にしてしまう所でした。


 その証拠に、私の外套の先っちょが、少し焼け焦げています。


 師匠がいたら、きっとゲンコツを食らっていたでしょう。


 まあ、もういませんが……。


 村から離れていたお陰で、この騒ぎに気付いた村人はいないようです。


 こんなのどかな村で、爆発が起きるなんて、誰も思いませんよね。


 ここから見ても、ロフロス村は本当にのどかな村です。王都と違って何もありません。


 よくいえば高い建物がないので、このような場所に立てば村全体を見通せます。


 町の西側には畑があり、その向こうには山々を背景に深い森が広がっています。

 以前見た地図によると、確か王国の端まで続く広大な森林です。


 今日のお昼はどうしましょうかと、暢気にお腹をさすっていると、外套の裾をくいくいっと可愛らしく引っ張られました。


「あの、ティルラ様にお願いがあります」


「はい、なんでしょうか?」


 彼女の澄み切った瞳が、私をじっと見てきます。いやー照れますね。まるで告白されているようです。


 少しもじもじした後、彼女は心を決めたのか、意を決して口を開きます。


 何を言われるのでしょう。少しドキドキしますね。


 ワクワクと彼女のお願いを待つ私に、リベアさんはこう告げました。



「――私をティルラ様の弟子にして下さい!!」



「へ?」


 思ってもみなかった回答に、私は口をだらしなく開けていたと思います。

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