第3話 引きこもり少女、旅立つ

 ということで、序列三位の変態くそやろうに出て行けと怒鳴られたので、仕方なく出て行く事になりました。お金も貰っちゃいましたね。結構たっぷり入ってました。


 序列三位こと、魔法統率協会所属のオルドスさんは、私にその日の内の退去を命令を下し、私物以外の物の持ち出し禁止など、その他の注意事項を早口でまくし立てていき、最後にこう言いました。


「この私が、わざわざ自称後継者と名乗っている貴様の元に来たのは、ひとえにシャルティア様への敬意故だ。だが私は、貴様を後継者だとは認めん。たとえシャルティア様と神が認めても私は認めん。いいか、命令に従わなければ即刻連行されると考えろ」


 いや、神と師匠が認めたら認めましょうよ。そんなに私の事が嫌いなんでしょうか?


 幼い頃から一応なりとも国のため、人のためにと尽くしてきましたのに。まあ、半分は趣味で続けてましたが。


 とはいえ、そんな私だっていつまでも研究漬けの日々を続けようとは思っていませんでした。


 師匠だって言っていたのです。嫌になったら後継者なんかやめて好きに生きていいぞと。その代わり野垂れ死にそうになっても、もう面倒は見ないと。


 私はどうやら魔法の才能はあったみたいで、一人でも困る事はなかったんですが、なんとなく師匠について回っていました。


 結局、師匠は私を置いて死んでしまって、私もこうして追い出される羽目になりましたけど。私の人生まだまだこれからです。だって15歳なんですから! 素敵な人と結婚して、好きな物食べて、好きな事をしたいですよ!!


 私は持って行けるだけの荷物をまとめ、毎日の日課になっていた師匠の部屋を綺麗に掃除し、数年間、師匠と過ごした屋敷を後にすることになりました。



「師匠今までありがとうございました! 私、これからは好きに生きますね!」



 私は屋敷に向けて、深々とお辞儀をします。


 顔を上げると、一瞬、師匠の部屋の窓から、師匠が気怠げに手を振ったような気がしましたが、それは見間違いでしょう。単に私が寂しがっているだけかもしれません。


 師匠は他人には厳しく、自分にはとことんと言っていいほど甘い、それはもうひどい性格の人でした。


 おまけに、何度言っても、煙草を吸うのをやめてくれませんでした。あれだけ言ったのにやめないから死んじゃたんですよ。


「ばか師匠……」


 だけど私を一応育ててくれた恩人で、一応母親のような人でした、と形容しておきましょうか。


 師匠と過ごす時間は、辛かったけど、楽しくもあり、たくさんのことを学ばせてもらいました。


 思い出すのは……修行、修行、修行! の日々です。


「あれ? 修行しかしていませんね」


 そして修行がお休みの日は昼夜逆転の研究生活。私に休みなんてありません。


 それでも、こうして終わりを迎えるのはやはり悲しく、寂しさもありました。

 

 ですが、私もそろそろ師匠から卒業して前を向かなければなりません。


 私はもう一度、礼をして、屋敷を立ち去ります。振り返る事はしませんでした。


 振り返っても、もう私を暖かく迎えてくれる師匠はいないからです。


 私を育て、魔法を、生きる術を教えてくれたあの人はもうこの世にはいないのです。



「――自由だぁーーーー!!」



 大声で叫びました。お陰で喉を痛めました。久しぶりに大声を出したからでしょうか。いえ、そういえば日常会話も、ここ一年まったくと言っていいほどしてませんでしたね。


 ですが私は自由です。命令されてご飯を作る必要もない。お風呂のお湯を沸かす必要もない。雷が鳴っている時は、寝るまで側にいる必要はもうありません!


 そう、私は自由なのです。


 弾むように通りを歩きます。石ころを蹴って遊んでみました。童心にかえったみたいで楽しかったです。


 ええ、そうです。私はそれほどまでにテンションが爆上がりしていました。


 この時の私はどこか遠い田舎に行って、楽しく過ごす事だけを考えていました。あまりに楽観的過ぎましたね。


 だって自由なのですから。もう好きに生きていい筈です。


――まったり、ゆったり、残りの余生は楽に過ごそう。私も師匠に倣って弟子なんてとらないぞー!!


 そう思った矢先、弟子をとり、王族直属の魔法使いになるだなんて、この時の私は想像もしていませんでした。


 それらも全て、魔法が退化し過ぎていた事にあります。


 ですが、師匠はそうなる事を知っていたのかもしれません。だから口癖のように師匠はこう言っていたのです。


『お前はあたしより立派な賢者になれるよ。あんたがそう思わなくても、世間がお前を離しちゃくれない。だからあたしが、こうしてあんたを保護してやってるんだよ』


 上から物を言う態度は非常に気に入りませんでしたが、今となってはいい思い出です。


 だって未来の私は、彼女の言葉通り立派な大賢者になったのですから。

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