第134話 気合いよ!

「というわけなんですが……」


 放課後。将棋部の部室。死神さんが来る前に、僕は、先輩に事のあらましを説明しました。


「いや、私に相談されても……」


 困惑の表情を浮かべる先輩。まあ、当然でしょう。もしも僕が逆の立場であったとしても、今の先輩と同じような表情になったに違いありません。


「こんな時、どんな話をすればいいんでしょうかね?」


「とりあえず、土下座しながら『娘さんを僕にください』って言えば?」


「そうですね……まあ、土下座するのは確定として……」


「確定してるんだ……」


 先輩は、呆れ声でそう呟きます。


 ですが、いくら呆れられようとも構いません。僕が殺されないために。そして、僕と死神さんがこれからもずっと一緒にいるために。できることはすべてしておきたいのですから。


「うーん……あとは……」


「…………」


「うーん……」


「あー、もう、グダグダ悩んだって仕方ないわ! 気合いよ! 気合いで何とかしなさい!」


「き、気合いって……根性論すぎますよ」


「うっさい! 夫になったんだから、ビシッと決めてくるのよ!」


 先輩は、僕の背中をバンッと力強く叩きます。痛すぎて、少しだけ涙が出ました。


「……はい。とりあえず、気合いで頑張ります」


「そうよ! 気合いで頑張って、玉砕してきなさい!」


「玉砕は嫌です!」


 僕たちの叫び声は、部室内の空気をビリビリと振動させていました。

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