第115話 お久しぶりね

 死神さんがいなくなって一週間。僕は、これまでと変わらない平凡な生活を送っていました。朝起きる。朝食を作って食べる。身支度をする。学校に行く。帰宅する。晩御飯を作って食べる。シャワーを浴びる。寝る。そんな、平凡な生活を。


 死神さんのことを忘れたわけではありません。いや、むしろ、毎日のように死神さんのことが脳裏を横切るのです。死神さんは今何をしているのか。死神さんと会うにはどうすればいいのか。もう、死神さんには会うことができないのか。そんなことを思うたび、僕の心の中を黒いものが埋め尽くすのでした。


 そして、今日も……。


「……おかず、作りすぎちゃったなあ」


 僕は、満腹になったお腹をさすりながら、そう言いました。僕の声が、部屋の中に小さく響きます。


 ついつい死神さんがいた時と同じようにおかずを作ってしまったため、食べきることができなかったのです。もし死神さんがいたなら、「残すなんてもったいない!」と言って食べてくれたのでしょうが……。


「死神さん……」


 僕が無意識にそう呟いた時でした。


「お久しぶりね」


 急に僕の背後から聞こえた声。僕は驚いて振り返ります。


 そこにいたのは一人の女性。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。死神さんそっくりの顔。


「お義母さん!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る