第98話 将棋の時間だー!
「いい本があってよかったですね」
「フフフ。これで私もさらに強くなるぞ。フフフ」
死神さんは、本の入った袋をギュッと両手で握りしめました。
結局、本屋には『鬼殺し』についての本はありませんでした。ですが、『鬼殺し向かい飛車』に近い戦法の解説書を見つけることはできたのです。本を見つけた時の、目を輝かせる死神さんの姿が、今でも脳裏にこびりついています。
ちなみに、どちらが本の代金を出すかで一悶着あったことは、また別のお話です。結局は、僕がお金を出して、死神さんに本をプレゼントする形に落ち着きました。死神さんは不満そうでしたが、まあ、よしとしましょう。最後には「ありがとう」と言って喜んでくれましたしね。
「さて、この後はどうしますか?」
「そうだね。……じゃあ、帰って将棋しよう!」
「言うと思いました」
僕の顔が、自然と笑顔になっていくのが分かります。将棋好きの死神さんのことです。新しい将棋の本を手に入れたのなら、すぐにでもそれを読み、実践で試してみたくなるに違いありません。せっかく隣町のショッピングモールまで来ているのにというツッコミは、野暮でしかないでしょう。
「あ。本の中で分からないところがあると思うから、いろいろ質問させてね」
「もちろん大丈夫ですよ」
僕と死神さんは、アパートへの帰り道をテクテクと歩いていきます。たわいもない会話をしながら。お互いに、笑い合いながら。
昔の僕は、想像できたでしょうか。死神さんという大切な人との出会いを。そして、平和で、心躍る日々の到来を。
「あ、アパート見えてきたよ!」
「ですね」
「将棋の時間だー!」
「ちょ!? 急に走り出さないでください、死神さん!」
死神さんが僕の前から姿を消したのは、それから二週間後のことでした。
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