第90話 ……うにゃあああ
「うへ……うへへへへへ」
「死神さん。周りの人がドン引きしてるので、早くその緩み切った顔をどうにかしてください」
土曜日。僕たちは、普段滅多に訪れることのない隣町のショッピングモールに来ていました。休日ということもあり、モール内には、多くの家族連れやカップル、学生の姿があります。ガヤガヤと賑やかな会話声。モール内に響き渡るアナウンス。客に向かってセール中であることを叫ぶ店員たちの声。まるで、別の世界に紛れ込んだかのようです。
さて、今、僕たちがいる場所は、ショッピングモール一階のペットショップ。店内には、たくさんの商品棚。それらには、ペット用品が所狭しと並べられています。そして、店の奥。そこにいるのは、鳴き声をあげる可愛い犬や猫たち。
「いいなあ……可愛いなあ……うへへ。うへへへへ」
死神さんは、小さな柴犬の子どもたちに夢中です。僕の声など、全く聞こえていないのでしょう。周りが見えないという言葉がここまでピッタリ当てはまる場面はそうないに違いありません。
「……とりあえず、一旦外出ましょうか」
僕は、死神さんの腕を掴み、グイグイと引っ張ります。そのまま、ペットショップの出入り口へ。これ以上、「うわあ……」という周りの人の冷たい視線にさらされ続けるのはごめんですからね。といいますか、柴犬の子どもたちまでもが死神さんにドン引きしているように見えるのは気のせいですか?
「え!? ま、待って。あ、あと三十分。いや、一時間だけ」
「長すぎです。ほら、さっさと行きますよ」
「そ、そんな。うにゃあああ」
僕に引っ張られながら、死神さんは、悲しげな声をあげるのでした。
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