第91話 ……他人事じゃないのに
ペットショップを出た僕たちは、近くの喫茶店へと足を運びました。店内には、赤ちゃんを連れた若い夫婦が一組だけ。彼らは楽しそうに談笑しています。僕たちは、夫婦から少し離れた席に通されました。
「それにしても……やっぱり柴犬はいいなあ。子供の柴犬は特に」
「まあ確かに、可愛かったですね」
「ふふふ。でしょう」
そう言って、ドヤ顔を浮かべる死神さん。柴犬の可愛さが伝わったことに満足したのでしょう。
「実は私、結婚して家庭を持ったら、絶対に柴犬を飼うって決めてるの」
「そうなんですね」
「…………」
「…………?」
僕の返事に、死神さんの顔からドヤ顔が消えました。唇を少し尖らせながら、無言で僕を見つめます。
僕は何か死神さんの気に触れるようなことを言ってしまったのでしょうか? 普通に相槌を打っただけなのですが……。
「私、結婚して家庭を持ったら、絶対に柴犬を飼うって決めてるの!」
「えっと……さっき聞きましたよ、それ」
「…………むう」
死神さんの唇がさらに尖ります。不機嫌になっている証拠です。
「し、死神さん? 僕、何か……」
その時でした。突然、店内に大きな声が響き渡ったのです。声のした方を見ると、大声で泣く赤ちゃんと、慌てて赤ちゃんをなだめようとする夫婦の姿が。
「……他人事じゃないのに」
死神さんが何かを呟いたような気がしましたが、よく聞こえませんでした。
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