第83話 さて、じゃあ、あれを使おうかな

 盤に駒を並べ終え、さっそく僕たちは対局を始めました。


「「よろしくお願いします」」


 部屋に響く二人の声。先手は僕。まずは、2六歩と飛車先の歩を一つ前進させます。


 対する後手の死神さん。その手は、3四歩。いつものように角道を開けたのでした。


 僕が2五歩と歩をさらに進めると、死神さんは、3三角と角を斜め上に一つ上げました。弱点である角の頭をカバーする一手です。


 そんな角を狙おうと、僕は、7六歩と自分の角道を開けます。


 ここまでの展開は、以前、死神さんと先輩が対局をした時とほぼ同じです。違いを挙げるとすれば、先手と後手が入れ替わっていることでしょうか。


 将棋は、一手の差ですら勝敗に大きく関わるものです。そのため、先手であるか、後手であるかによって、指すことのできる戦法や攻め方、守り方にも違いが生まれてくるのです。実際、アマの世界でもプロの世界でも、先手の方が高い勝率を誇っている人は大勢います。


 例えば今の局面。死神さんが、先輩との対局の時と同じように『新鬼殺し』をしようとしても、その威力は半減してしまいます。そもそも、『新鬼殺し』は先手の人が使う戦法ですからね。


「さて、じゃあ、あれを使おうかな」


「あれ……ですか」


「そう。あれだよ」


 そう言って、死神さんは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべます。


 死神さんが次にどんな手を指そうとしているのか、僕にははっきりと分かりました。なぜなら、最近の死神さんは、ずっと同じ戦法ばかり指しているからです。


「さあ、いくよー」


 慣れた手つきで駒を手に取り、盤上にパチリと打ち下ろす死神さん。その手は、2二飛でした。

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