第78話 ……お義母さんの提案だったんですね

「それでね。見かねた私が提案したのよ。魂を回収する予定の相手と将棋を指してみたらって」


「……お義母さんの提案だったんですね」


「ええ。まあ、全然上手くいかなかったみたいだけどね。人間が死ぬ直前って、寿命だったり、病気だったり、事故だったり。とにかく将棋ができない状況の方が多いから」


 確かに、死ぬ前の人と将棋ができる状況なんて、滅多に訪れるものではないでしょう。それに、その人に将棋経験があるかということも必要な条件です。それを考えると、自殺という道を選び、なおかつ将棋経験のある僕は、死神さんにとって格好の相手だったに違いありません。


「……確か、死神さんは、この辺り一帯で亡くなった人の魂を回収する仕事をしてるんでしたよね」


 僕の質問に、お義母さんはコクリと頷きます。


 おそらく僕のように、自殺という道を選び、かつ将棋経験のある人は、他にもいることでしょう。ですが、この辺り一帯という条件が追加されたのなら話は別です。


「……僕は、すごい偶然のおかげで死神さんと出会ったんですね」


「そうなるわね。これが運命の赤い糸ってやつなのかしら。ああ、早く孫の顔が見たいわ」


 お義母さんの言葉に、シリアスな雰囲気が霧散していくのを感じます。思わず呆れて笑みさえ漏らしてしまいそうな場面。ですが、僕にはそれができませんでした。まだお義母さんに聞きたいことがあったからです。


「お義母さん。冗談はそれくらいにして、続きを聞かせてもらってもいいですか?」


「冗談ではないのだけど……。まあ、いいわ。続きを話すわね」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る