第39話 ……よし、決めた

「で、どうして将棋部に入部してくれないの?」


 パンを食べ終えた先輩が、僕にそう尋ねます。


「……いろいろとあるんです」


 僕が答えると、またそれかというように、先輩は顔をしかめました。


「昨日も聞いたけど、そのいろいろって何?」


「それは……」


 どうやら、詳しい事情を説明しなければ、先輩は納得してくれないようです。ですが、死神さんのことを話すわけには……いや、そうだ。


「……実は、僕、ついこの前までアパートで一人暮らししてたんです。けど、最近、社会人の姉がこっちに来まして。今は、一緒に生活してるんですよね」


 その時、先輩の目が大きく見開かれました。まあ、驚くのも無理はありません。高校生で一人暮らしをしていたというのは、かなり珍しいことですからね。


「それで、この姉が家事全般、特に料理がからっきしでして。姉が仕事から帰ってくる前に、晩御飯を作らなきゃいけないんです」


「……なるほどね」


「だから、すいません。部活に入ると、僕が帰る時間が遅くなっちゃいますし……」


 僕の言葉に、先輩は腕組みをして考え事を始めました。今、先輩が何を考えているのかよく分かりませんが、さすがに諦めてくれるでしょう。我ながら、いい説明を考え付いたものです。


「……よし、決めた」


「あ、分かってくれましたか?」


「今日、あんたのアパート、行くことにする」


 そう言って、先輩は、僕に向かってビシッと人差し指を向けました。


 …………え?

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