第8話 そんなものだよ
死神と将棋を指す人間なんて、世界広しといえども僕だけなのではないでしょうか。自殺する前に希少な体験をするのも悪くない。そんな軽い気持ちで、僕は、死神さんの提案を受け入れたのでした。
「楽しみだなー。楽しみだなー。君は、どんな将棋を指すのかなー」
死神さんは、とても嬉しそうな声でそう言いながら、駒を並べます。その体は、好きな音楽を聴いている子供のように、ユラユラと左右に行ったり来たりを繰り返しています。死神さんが左右に動く度に、その綺麗な白銀色の髪が、フリフリと揺れていました。
「僕がどんな将棋を指すのかは、死神さんが持ってる死神手帳には書いてないんですか?」
僕の頭に、ふとそんな疑問が浮かびました。僕の中学生時代の大会成績が載っているくらいですからね。僕がどんな将棋を指すのかが書かれていても不思議ではありません。
「うーん。確かに、死神手帳は、これから死ぬ予定の人がこれまで経験したことを自動的に書いてくれるから、君の将棋に関しても書かれてるんだけど……」
「……けど、何ですか?」
「なるべくそこの部分は見ないように気を付けてたよ。だって、君がどんな将棋を指すかなんて、指す前に見ちゃったらつまらないじゃない。将棋の対局は一期一会なんだから」
「……そんなものですか?」
「そんなものだよ」
死神さんは、心から僕との将棋を楽しもうとしているようでした。
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