第2話 無言で警察に連絡しようとするのはやめて!

「これ、どうぞ。安いお茶ですけど」


「これは、これは。ご丁寧にどうも」


 女性は、お茶の入ったコップを受け取ると、ペコリと僕に向かってお辞儀をしました。そのまま、お茶を一気に飲み、コップを目の前のこたつテーブルにゆっくりと置きます。


 六畳一間。アパートの一室。一人暮らしをする分には、何の不自由もありません。ですが、今はとても狭く感じます。誰かが僕の部屋に来るなんて、いつぶりのことでしょうか。


 僕は、女性が座る向かい側に腰を下ろしました。


「それで、あなたはいったい何なんですか?」


 僕がそう尋ねると、女性は、「待ってました!」とばかりにフフッと不敵な笑みを浮かべます。


「驚かないで聞いてね。実は、私、あなたのストーカー……ま、待って! 無言で警察に連絡しようとするのはやめて! 冗談だから!」


 女性の言葉に、僕はとりあえずスマホをポケットの中にしまいました。


「……本当に、何なんですか?」


 呆れ声が僕の口から飛び出します。初対面の人に対してこんなに呆れたのは初めてかもしれません。


 女性は、そんな僕を見て、スッと居住まいを正しました。つられて、僕も同様に居住まいを正します。


「私はね……死神なんだよ」


 女性の顔は、真剣そのものでした。

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