ねえ、君、死ぬ前に私と将棋しようよ

takemot

第1章 僕の自殺を止めたのは……

第1話 いや、僕、今から自殺する予定なんですけど

「ねえ、君、死ぬ前に私と将棋しようよ」


 突然、背後から聞こえた女性の声。ビクリと肩を震わせ、僕はゆっくり後ろを振り向きました。


 僕の視線の先。そこにいたのは一人の女性。年は、十六歳の僕よりも少しだけ上といったところでしょう。彼女は、真っ黒なローブと真っ黒な三角帽子を身につけ、綺麗な赤い瞳をこちらに向けています。胸のあたりまである長い白銀色の髪は、部屋の蛍光灯に照らされてキラキラと輝いて見えました。


「えっと……これ、どうすればいいんでしょう?」


「とりあえず、私と将棋すればいいんじゃないかな?」


「いや、僕、今から自殺する予定なんですけど……」


 僕の手には、一通の封筒。その中には、先ほど書き終えた遺書が入っています。といっても、特定の誰かに宛てて書いたというものではありませんが。


 僕の言葉に、彼女は首を傾げました。


「いや、知ってるよ? だから、死ぬ前に将棋指そうと思ったんだけど……」


「……あなた、頭大丈夫ですか?」


「特に問題はないはずだけど。え、何? 何が分からないの?」


「…………?」


「…………?」


 僕たちは、しばらくの間、頭にはてなマークを浮かべ続けるのでした。

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