第8話 佐奈

 佐奈は可愛いね。


 小さい頃から、みんなより背が少し低くて、泣き虫だった佐奈にみんな優しかった。


 だから、佐奈ができないことに誰も怒らなかった。


 佐奈ができないことがみんな当たり前だと思っているから。


 そんな、自分が佐奈は嫌いだった。


 自分を変えたい。そのきっかけに、親友の美咲ちゃんとダンス部の部室の扉を叩いた。


 そう、なのに佐奈は逃げ出した。


 みんなは、佐奈は可愛いから仕方ないとか、佐奈はできなくても良いと口では言っていたけど……違う。


 そうやって、みんな、佐奈を仲間外れにしていくんだ。


 美咲ちゃんには、悪いとは思ったけど、佐奈は入ってしばらくしてダンス部を辞めた。


 やめた後も、美咲ちゃんだけは変わらずに接してくれていた。


 でも、それが佐奈にはつらくて……。


 お菓子を食べる。その時間だけは幸せでいられた。可愛い、佐奈を続けられた。


「おっ、美味しそうなの食べてる」

「!?」

「ねぇ? 一つもらっていい?」


 突然話しかけてきた、笑顔の可愛い女の子は佐奈は無言でクッキーを一枚差し出す。


「ありがと。うんっ。美味しい」


そう言って、その女の子は笑顔を見せる。


「あのっ!」

「んっ?」

「いえ、なんでも、ない、です」

「……可愛いね。あなた」


 まただ、また可愛い佐奈を求める。


「えへへ、ありがとう」


 不自然な笑顔を浮かべる。でも、これが可愛い佐奈が求められてーー。


「それは、可愛くない」

「えっ!?」

「可愛くない」


 初めてだった。だって、可愛い佐奈はーー。


「さっき、お菓子を食べてたあなたは可愛かった。誰に対してでもない、あなたの内から生まれた笑顔」

「でっ、でも、佐奈は可愛いしかできないから。それ以外は……」

「それはわからない」

「ふえっ?」

「楽しかったら、できるかもしれない」

「楽しい?」

「そう、楽しいと笑顔になる。意識しなくても可愛くなれる」


 そう言った女の子の笑顔は本当に眩しくて、綺麗で、可愛くて、佐奈は思わず見惚れてしまう。


「でっ、でも、佐奈何もできないし、楽しいことわからないし、やりたいこともーー」

「じゃあ、これから見つければ良い。楽しいこと」

「あっ!」

「奈々ー美咲、待ってるよー」

「今行く。じゃあね」

「あっ、あのっ!!」

「楽しいこと見つけたいなら、3階の外れの空き教室、来て」

「えっ?」

「待ってる」


 それが佐奈と奈々ちゃんの出会いだった。


 奈々ちゃんのおかげで佐奈は自分の好きなもの、楽しいものに気づけて、今、フランスでパティシェの夢を追いかけることができている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「もしもし、美咲ちゃん? うん、大丈夫だよ。明日、何時にしようか佐奈も電話しようってーーえっ? 真央ちゃんが? うんうん! もちろんいいよ!! じゃあ、明日、うんうん。うん、またね。美咲ちゃん」


 真央ちゃん……奈々ちゃんがいなくなってから不登校になっちゃってあったのは本当に数回。


 最後に会ったのは卒業式に顔だけ見ただけ。


 そんな真央ちゃんが、美咲ちゃんと連絡取っていたことは驚いたけど……。


「……奈々ちゃん」


 一度だけ、お菓子の材料を買いに行くとき奈々ちゃんに出会ったことがあった。


 確か、奈々ちゃんがいなくなった年の冬だった気がする。


 奈々ちゃんは、久々にあったはずなのに、昨日あったみたいにいつも通りで……ただ、笑顔だった奈々ちゃんが少しだけ真面目な顔になって……。


【真央を助けてやって】


 ってそれだけ言ったらどっか行っちゃって……急いで追いかけても見つけられなくて……。


 明日、真央ちゃんに会ってもし困っているなら助けてあげよう。


 それがきっと佐奈ができる、奈々ちゃんへの恩返しになると思うから。

 

 

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