第18話 8月……。
気づくと、私たちは、小さな山の入り口に立っていた。
周辺は、すっかり暗くなっていて、小さいはずの山がとても不気味に見えた。
スマホで時刻を確認すると、23時をとうに過ぎており、まもなく8月が……。
夏が終わりを迎えようとしていた。
「どうして、私たちこんなところにいるのかしら? って、私、明日出勤なのよ!!」
「えっ!? マジ!! もう、こんな時間!! 明日、夕方からシフトなんだけどーってか、佐奈!! 飛行機の時間!!」
「あっ、あ〜!!! 過ぎちゃってる〜!!」
「とにかく、急いでホテルに帰るわよ。荷物だって持ってないみたいだし!!」
「やっばぁ!! 明日、休めるかなー?」
「もしもし、あっ、佐奈です。ごめんなさい、実は帰るのがーー」
「……」
「真央ー!! 何してるの!! 置いていくわよ!!」
後ろから聞こえてきた静葉の声に、私もみんなを追って走り出す。
どうして、ここに私たちはいたんだろう?
とても、大事な、大事なことがあったはずなのに……何も思い出せなかった。
その日、ホテルに戻り、荷物を受け取った私たちは各々自分の家へと帰った。
連絡も入れず、深夜のサプライズ的帰省となってしまったが私を含め、みんな驚かれはしたが、暖かく迎えてもらえたらしい。
何年ぶりになるかわからない、自分の部屋。
ベッドに倒れ込むと、すぐに疲労感が襲って来て、そのまま目を閉じる。
その日、私は夢を見た。
それは、学生時代に、一生懸命楽器を演奏したり、踊ったりした思い出だった。
美咲がいて、佐奈がいて、静葉がいて、あの頃の私もいる……。
みんないるはずなのに、遠くから見ている今の私はその光景に違和感を感じていた。
「真央……」
背後から聞こえた声に振り向く。
でも、そこには、誰もいなかった。
「今の声……どこかで……」
ふと吹いた風が、頬を撫で、すごく暖かい気持ちになる。
無意識に、左腕をぎゅっと抱きしめた。
一瞬だけ、私じゃない誰かの温もりを感じる。
「……」
ふと、目覚めた私は、何故か、上着のポケットに入っていた学生時代に使っていた古びた携帯の電源を入れる。
待ち受け画面が表示され、そこには私たち4人が楽しそうに笑顔を浮かべて写っていた。
「なんで、私……今更ガラケーなんか、ポケットに入れてたんだろ? ってか、なんで帰省するだけなのに、私はギターなんか持って来てるのか……実家に置いておくために? でも、じゃあなんでわざわざ弾けもしないギターを?」
疑問は尽きないが、私はなんとなく、弾けもしないギターをぎこちなく鳴らした。
それが、懐かしい誰かの声に聞こえて……。
私は、一人、何故か涙をこぼしていた。
それが、私たちに起こった不思議な夏の出来事だった。
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そして、月日は流れ……。
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「久しぶり、みんな」
「おー真央っち! 久しぶりー! って言ってもー昨日も電話してたじゃーんあたしら!」
「でも、直接会うのは一年ぶり、だよね!」
「……あんまり、久しぶりって感じはしないのは何故かしらね……」
「じゃあ、行こっか!」
時間なんて気づけば、あっという間に過ぎてしまうもので……。
私たちは1年ぶりに、地元への里帰りを決める。
3年前、何がきっかけだったのかは覚えていないが、私たちはまたこうして定期的に集まるようになっていた。
そして、1年に1回の里帰りは、一緒に。
そんな流れがいつの間にか出来上がっていた。
楽しく、列車で会話をしていれば、あっという間に目的地に辿り着く。
「佐奈ーもしかして、また太った?」
「たしかに……前、見た時よりお腹、大きくなったような……」
「……俗に言う、幸せ太りってやつ?」
「ううん、違うよ! 実はね……今、お腹の中に赤ちゃんがいるの!」
「うぇっ!? そうなん!!」
「ちょっと! それ、大丈夫なの? そんな、遠出しちゃって!!」
「うん! 彼にも心配されたけど、この子にも会わせてあげたかったの」
「会わせて? 誰に?」
「佐奈も実は、よくわからないけど、この子の名前はすぐ決めたの、名前はーー」
あの頃、私たちは何色でもない透明だった。
怖いくらいに透き通っていて、何色にも染まれた。
今、私たちはそれぞれ、何かの色に染まってしまった。
来年は、5人での帰省になりそうだ。
私と、美咲と佐奈と静葉と……そして、なな。
8月……また、この季節がやってきた……。
そして、あっという間に終わりを告げる。
それをずっと繰り返していく……。
これまでも……そしてこれからも……。
ずっと、ずっと……。
「ねぇ? 名前、なんていうの?」
「へぇー私と同じだね。私も、奈々っていうんだ」
「よろしくね、ななちゃん」
あの夏の日に……私たちは。 縛那 @bakuna_pana0117
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