第16話 8月31日 3 (真央)

「……真央……」

「今まで、どこ行ったのさ!! 私、私たち!! すごく心配してたんだよ!!!」

「ねぇ、真央、今、幸せ?」

「幸せじゃない!! 奈々がいない、私の人生が幸せであるはずがない!!!」

「そっか……でも、大丈夫。真央はきっと幸せになれる方法、知ってる」

「嫌だ……嫌だよ。奈々!!!」

「私は、真央のーー」

「嫌だって!!!」


 私が奈々に抱きつき、その先の言葉を遮る。


 手紙は半分、消えたがまだ残っていた。


「参ったなぁ……失敗したかぁ」


 そう言って、奈々は舌を出して笑っていた。


「ちゃんと、説明してくれる、よね? 奈々」

「うん。良いよ。じゃーん私、実は神様」

「神、様……。」

「ねぇ、奈々、今はふざけるときじゃーー」

「七結心絆神(ななゆいしんはんのかみ)」

「!?」

「私の本当の、名前」

「じゃあ……本当に?」

「そう、神様」


 奈々が冗談を言っているようには、聞こえなかった。


 ってことは、やっぱり……。


「最初は、恩返しのつもりだったんだ」

「恩、返し?」

「遠い昔、もしくは、遠い未来で、私は真央に救われる」

「えっ?」

「具体的にはわからないけど、でも、間違いない」

「奈々……」

「最初は、興味本位。真央、どんな人なんだろうって……」


 目の前にいるのは、私の知ってる奈々なのに、まったく別の……私たちとは別の存在のようなそんな感覚がした。


「あの学校でみんなに出会って、でも、出会えただけじゃバラバラだったから、私が巡り合わせた」

「……それは、何のために?」

「……静葉、答え、本当はわかってるでしょ?」

「それが、楽しい、から……?」

「おー! 美咲、正解」

「でも、奈々ちゃん、それだけじゃないんだよね?」

「佐奈、鋭いー。神様、びっくり」

「奈々!!!」

「真央、怒らない……この4人だったら、私も楽しめる。きっと。そんな気がした」

「この、4人、なら?」

「そっ、私も含めて、楽しい」

「それは、どうして? そう、思ったの?」

「……勘?」

「ふざけないで、奈々」

「ふざけてないよ。でも、曖昧。でも、だから、希望を感じた」

「希望?」

「後は……もったいないなって、みんな、楽しくなれるのに、自分から手放そうとしてたから」

「それが、私にとってのピアノ、美咲にとってのダンス、佐奈にとっての夢だったわけね」

「ピンポンピンポン、静葉、だいせーかーい」

「……じゃあ、私は?」


 ようやく絞り出せた言葉、奈々の話を聞けば聞くほど私には当てはまらないような気がした。


 だって私はーー。


「……真央は、私にも、わからない」

「じゃあ!! なんでーー」

「真央は、楽しいって気持ちを拒んでたから」

「……」

「楽しいが終わると、悲しい、寂しいがくる。真央は知ってるから、だから、楽しいを拒んでた」

「だって!! ……楽しいを……受け入れたら、私は、私は……」

「そっ、だから、悲しい、寂しいを越えた楽しいを真央に教えた」

「奈々……」

「でも、真央の楽しいに私がいる。そのことは……あぁ考えてなかった」


 奈々が苦笑いを浮かべる。当たり前だ、私にとっての楽しいには必ず奈々がいた。


 奈々のいない楽しいなんて、私にはーー。


「でも、それは今までの真央、これからの真央は違う」

「えっ?」

「真央は気づいてる、真央は私がいなくても、楽しいをもう受け入れられる」

「待って! 違う!! 私は!! 私の楽しいはーー!!!」

「真央、私に、もう気を使わなくてもいいよ」

「ちがっ!! 私は!! 私には奈々がーー!!」

「真央はきっと私の言ったあの言葉、ずっーと気にしてた」

「奈々!!」

「誰かの楽しいを邪魔したくない、だから、私の楽しいを居場所を守るために、私のいない楽しいを拒んでいた」

「奈々がいなきゃ!! 楽しくないよ!!! 私の楽しいには奈々がいないと!! ダメなんだよっ!!!」

「真央は、もう大丈夫。私がいなくなっても楽しいを受け入れられる。だって、私の言葉がなくても、みんなを集めて、会いに来てくれた、昔の真央ならできなかったこと」





 



 

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