第15話 8月31日 2 (真央)

「やっーと着いたしぃ……」

「つっかれた〜」

「……真央、あなた、大丈夫?」

「……引きこもりには正直、辛いけど、多分、大丈夫。」


 私たち4人は、時間が迫っているというのに、のんびりと昼過ぎまでたっぷりと宿で過ごした。


 焦っても、奈々には会える気はしない。


 それより、今、この瞬間を全力で楽しんだ後の方が、奈々は現れてくれる。


 そんな不確かな予感が、私だけでなく3人にもあったんだと思う。


 そして、ただ、無駄に時間を過ごしたわけではない。見えて来たものもあった。


 奈々が残した地図、それはこの小さな山の場所を示していた。


 地図に描かれたこの小さな山を登り始め、頂上にたどり着いた時には気づけば、夕方になっていた。


 頂上から見えた景色は、夕焼けに照らされた街。


 そのオレンジ色に染まった街が一望できた。


「うっはぁー!! こんな場所、あったんだ。あたし知らなかったー」

「佐奈も知らなかった〜」

「……ねぇ、真央、ここなの?」

「……多分?」


 学校から見える、小さな山へ登るための秘密の道。 


 それが奈々に私たちに残した最後の手がかりだった。


「この山、随分、昔に中に入れないようになったってお婆ちゃんから聞いてたけど……奈々、なんでこんな道知ってたんだろ?」

「……わからないわ。きっと、奈々本人じゃないと……」

「おーい! やっほー!!!」

「やっほ〜」

「……2人とも、こんな小さな山じゃ、やまびこは返ってこないわよ……。」

「えぇぇっ!? そうなのぉ!?」

「佐奈、がっかり〜」

「それより、早く探しましょ。真央、宝の地図、持ってたわよね?」

「宝かどうかはわからない、けど、ね……」


 手紙の内容は、それは、至ってシンプルだった。


 万が一、私たち以外に見つかっても良いように昔遊んだ暗号ゲームで使った暗号で書かれた文章。


 正直、佐奈が気づいて、美咲がそのやり方を覚えてなければ昔、遊んだ私たちですら、この場所に辿り着けなかっただろう。


 書かれていた内容はーー。


 『私のこと、覚えているなら、この場所に来て、大きな木の下を掘ってみるがよいー』


 ただシンプルに奈々らしい一言だった。


「あっ! 大きな木って、あれかな〜!?」

「た、ぶん?」

「……掘ってみよう。正解なら、何かあるはず」

「……そうね……」


 私たちは、その木の下を行きがけに買った、小さなスコップを使い、その木の下を掘り返してみる。


 するとすぐに、小さな茶色の箱が姿を現す。


 それは、奈々がいつだったかみんなで買い物に行った時、買っていたもの。


 この時のために、奈々は……。


「開けてみよーよ。真央っち」

「うん……」


 私は、震える指でその箱をゆっくりと開けた。


 中身は、4枚の手紙、それが入っていただけだった。


「お手、紙?」

「……真央……」

「うん……。」


 その手紙の宛名は、私たちそれぞれに向けて、奈々が書いた手紙のようだった。


「……これ、タイム、マシーン?」

「奈々ちゃんからの佐奈たちへのお手紙……?」

「どうするの? 真央?」

「……開けてみよ……」


 私たちはそれぞれ手紙の封を切り、中を確認する。


 奈々がいつも作詞用に使っていたノートのページで書かれた手紙はシンプルにただ、一言書いてあるだけだった。


 その手紙を見て、私を含めて、みんな、その場から動けず、固まってしまっているようだった。


「やぁやぁ、皆の衆、お揃いみたいだね〜」


 気の抜けたその声に、全員が振り向く。


 そこには、あの頃と何も変わらない奈々の姿があった。


 相変わらず、何が楽しいのか奈々はへらへらと笑っていて……。


「奈々!! あなた、今までどこにーー」

「静葉、ピアノ、今は怖がらないで弾ける?」

「……奈々」

「大丈夫、怖くないよ。だって、楽しかったでしょ? あのバンド活動」

「……」

「静葉のピアノ、私好きだったよ」

「奈々……」


 奈々が笑うと、静葉が握っていた手紙が消える。


「奈々っち、これ……この手紙」

「美咲、踊るの楽しい?」

「……えっ?」

「大丈夫。美咲は、楽しく踊れば良い。私は踊ってる美咲が好き」

「奈々っち……」


 奈々がまた笑い、美咲が握りしめていた手紙が消えた。


「佐奈、やりたい事……夢、見つかった?」

「奈々……ちゃん、うん! 見つかったよ!!」

「そっか、なら、大丈夫。佐奈は、やりたいことを楽しくやれば良い。私はそんな佐奈の笑顔が好き」

「奈々、ちゃん……」


 奈々が笑い、佐奈が持っていた手紙も消えた。

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