第14話 8月30日 3 ー 8月31日 1

「……ねぇ? なんで、各々実家だってあるのにわざわざホテルに泊まってるの? 私たち」

「いいじゃんいいじゃん!! 静葉、修学旅行みたいでさ!! 楽しいじゃん!!」

「うん! 佐奈もみんなとお泊まり楽しい!!」

「……寝るよー」

「ちょっ! 真央っち!! 寝ちゃうの!?」


 薄い毛布を被り、眠りにつこうとした私を美咲が止める。



「いや……もう、良い時間だよ、明日もあるんだから……」

「いやいやいやいや!!まだ10時前だよー夜はこれからーー」

「私も真央に賛成。おやすみ」

「ちょっ! 静葉まで!!」

「……それなら、美咲は何かみんなでやりたいことでもあるの? まさか、この歳になって枕投げしたい、とか言わないわよね?」

「しないしない!! そ・れ・にー女子会って言ったら、恋バナでしょ恋バナ!!」

「恋バナ、かぁ……」

「……私は寝るからね」

「ちょ! 静葉ー!! もー……まっ、仕方ない。真央っちは釣れたっぽいし、じゃあ、最初は……佐奈から!」

「えっ!? 佐奈からなの?」


 突然話を振られ、佐奈は少しあわあわとして動揺しているようだった。


「もちぃー結婚間近と噂の今、あっつあっつな佐奈の話からでしょーあたしは、だいたい知ってるけど、真央と……静葉は知らないわけだしー」


 寝てるはずの静葉の方を美咲が一度だけ向く。


 静葉は既に眠りについたのか、寝息は聞こえなかったけど、とても静かだった。


「そう、だね……じゃあ、佐奈から話すね、あのねーー」


 佐奈の話を要約するなら、噂の彼は、同じ大学の先輩で……。


 きっかけは、その日なんとなく講義をサボりたくなり、気持ちよく晴れていたので、屋上でお菓子を食べていたら偶然、その先輩がその場に現れたのが始まりだったそうだ。


 それを機に話すようになり、好きな漫画が同じだったこともあり、佐奈はその彼とそのまま自然とお付き合いすることになった。


 だが、卒業後は国に帰ると告げた彼を追って、一年後佐奈もパティシェの修行も兼ねて、フランスに乗り込み、順調に交際を続け、来年の春、佐奈の誕生日の日に結婚式をあげる予定とのことだった。


 外国人である彼氏に対し、美咲は、当初、反対気味だったのだが……。


 カタコトとはいえ、佐奈や自分とちゃんとコミュニケーションを取ろうとしてくれた彼の紳士的な対応に、感動し、お互いの言葉を教え合う内に仲良くなったということらしい。


「ふーん、そうだったんだ。素敵な彼だね。おめでとう、佐奈、幸せになってね」

「うん! ありがとう! 真央ちゃん」

「じゃあ、次はーーあたし、行っちゃう?」

「ご自由、に……」

「おっけー! では、2番、美咲いっきまーす!! あのねーー」


 美咲の話を要約すると、まぁ、美咲らしいといえばらしいものだった。


 高校卒業後、美咲は、色んな男の子と付き合ったらしい。


 サークルの先輩、バイト先の後輩、講義を受けていた教授……。


 美咲は昔から、同年代の異性以外は恋愛対象になると言っていた。


 なぜ? って聞いた事が昔あるけど、どうやら、過去に美咲は、好きだった同年代の男の子に告白出来ず、そのまま急な転校で疎遠になってしまったから……だそうだ。


 その話を聞いて、私は、美咲は今もきっと、その彼のこと、まだ好きなんだろうなって思う。


 それは、大人になった今でも、気持ちは変わってないんだと思う。


「さーて、じゃあいよいよ最後は真央っちのーー。」

「待った! 静葉、寝たふりでただ聞いてるだけってのはズルいと、私は思うな」


 私の一言を聞いて、静葉がゆっくりと起き上がる。



「……そうね、あなたたちの話し声がうるさくて寝られなかった……なんて言い訳はしない……私が好きになったのは後にも先にも奈々だけよ」

「うぇ!?」

「静葉ちゃんの好きな人って奈々ちゃんだったの!

?」

「……あなたは、驚かないところを見ると、私と同じなのね。真央……」

「うん……私にはそういうの良くわからないけどきっと、そうなんだと思う」

「えぇぇぇ!?」

「真央ちゃんもなの!?」

「あなたたちだって、驚いてはいるけど、その気持ちわからないわけでもないんでしょ? あなたたち2人も奈々には、他の同性に対しての感情とは別のものがある」

「まぁ……たしかにぃ、奈々っちのことは、みんなと同じ大事な親友……ではあるけど、言われて見れば、奈々っちは、みんなとはちょっと違う見方してたこともあったかも……」

「佐奈は、奈々ちゃんと2人だけの時はいつもドキドキしてた。なんでか、わからなかったけど、すごく心が暖かかった気がする……」

「……やっぱり、みんな、奈々のこと親友としての好きな人だけじゃなかったのね」

「奈々を探すって話になった時、みんなが集まってくれた理由がようやくわかったよ。……みんな、きっと奈々に対して言えてない、言わなきゃいけないことがあるんだよね?」


 みんなは、あたしのその問いかけに、首を縦に振り、無言で頷いた。


「明日、奈々に会おう。そして……みんなで言おうよ。あの頃奈々に言いたかったこと」


 気づけば、時刻は、既に12時を回り、知らない間に明日になっていた。


 タイムリミットは、刻一刻と迫っていた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る