第12話 8月30日 1 ……(真央)

「みんな、いる、ね」

「あったり前じゃん! 真央っち!」

「絶対に、見つけようね! 真央ちゃん!!」


 やる気満々の2人と、言葉こそ交わさないけど強い意志を持った眼差しを静葉が私に向ける。


「行こっ……みんな」


 翌日、改めて駅前に集まった私たちはあの頃と同じ、まるで学生時代に戻った頃のような空気感があった。


 でも、それは空気感だけ、私を含め、もうみんな良い大人だ。


 学生時代のように、見つかるまでなんて時間に余裕はない。


 みんなそれぞれ自分の生活があって、私たちに残された時間はちょうど夏休みが終わる8月31日までの2日間のみだ。


 それが終われば、またみんなバラバラにーー。


「……おちゃん? 真央ちゃん!」

「んっ? 何、佐奈?」

「だい、じょうぶ? もしかして、体調悪い?」

「いや、違う違う。みんなに会えるの楽しみで昨日、眠れなかっただけ」

「なにそれぇー! 真央っち、あたしと一緒じゃん! 仲間仲間ー!!」

「アハハ、仲間、だね。美咲」

「本当に? 大丈夫? 真央ちゃん?」


佐奈が心配そうに私を見つめている。美咲は、きっとなんとなく、察してわざと茶化しているのだというのもわかった。


「うん、心配かけて、ごめんね。佐奈」

「うん、あっ、真央ちゃん、お菓子食べる?」

「うん、貰おっかな。」


 佐奈は、あの頃のようにポケットーーではなく、小さなカバンからチョコを取り出し私に渡す。


 そのチョコを、私はそのまま口に入れる。


 チョコなんて、何年ぶりに食べただろう……。


「甘い……」

「美味しいでしょ? えへへ〜佐奈の最近のお気に入りなんだよ!!」

「佐奈ーあたしにもー!」

「はい、美咲ちゃん、どうぞ」

「ありがと。んー! 美味い! ってか、佐奈、そろそろ、その自分のこと佐奈って呼ぶのやめたらーっていつも言ってんじゃーん」

「えっ? だめかな〜? 美咲ちゃん?」

「あたしは、可愛いと思うけどぉ、ほら、あたしらもう良い年だしぃ……その、第三者的にはちょーっと痛いかなぁって……」

「ダメ?」

「うーん……良い! 佐奈は、可愛いからゆるそぉー!!」

「やったぁ〜」

「……ねぇ、佐奈、もう一つもらって良い?」

「良いよ〜真央ちゃん、お腹空いてるの?」

「うーん、まぁ、そう、かな?」


 佐奈が、私と遠くの静葉を見て、何かに気づいたようにチョコの包み紙を二つ手渡す。


「静葉ちゃんも! ねっ!!」


 どうやら、私の考えに佐奈も気づいたようだった。


「ありがと、佐奈。」


 佐奈に短くお礼を言って、一人で座っている静葉の隣へ腰掛ける。


「……どうしたの?」

「んっ」

「……いらない」


 静葉の右手を掴み、強引に佐奈のチョコを渡す。


「……」

「溶けちゃうよ」

「……奈々みたい」

「えっ!?」


 静葉は小さく笑って、チョコを口に入れると、スマホを取り出し、そのままヘッドホンに繋いで自分の世界へと入ってしまった。


 そんな静葉の手を取り、私はそのまま佐奈たちの席へと静葉を連れて行く。


「あっ! 静葉ちゃん、いらっしゃい」

「真央っち、静葉もとりあえず座んなよー」

「真央? あなたどういうーー」

「私! トランプ、持ってきたんだ!!」


 私の発言と、思った以上に大きく出てしまった声に3人が固まってしまっていた。


「あっ、あの……わた、わたしーー」

「いいよ〜! 何する? 佐奈、何でもいいよ〜」

「静葉! あんたにだけは負けないからね〜」


 そう言って、美咲が静葉にニッと笑いかける。


 静葉は、ヘッドホンを外し美咲の向かい側の席に座る。


「……私だって、あなただけは、負けないわ」


 その様子を見て、私も佐奈の向かいに座り、2人で静かに笑い合った。


 そこには、あの頃の……あの部室の時のような光景が広がっていた。


 目的地に着くまでには、まだ時間はだいぶ、かかりそうで、楽しい旅行になる、そんな予感が私は既にしていた。


 

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