第11話 8月29日……(真央)
店の前には、既にみんなが集まっていて、私が最後だった。
「おはよ真央っち」
「久しぶりだね真央ちゃん」
「美咲、佐奈……来てくれたんだね。静葉」
「……たまたま休みだった……それだけよ」
学生時代のようにとはいかなかったけど、実際にみんなと会えば、思ったほど緊張はしなかった。
美咲とはこの間会ったけど、改めて見ても美咲ご一番学生時代と印象があまり変わっていないように思える。
本体よりも大きなストラップをつけたスマホを長い爪で操作している姿は、まさに今より長かった爪で携帯を器用にいじっていた学生時代によく見たような気がする。
佐奈はなんだか大人になっていた。
相変わらずちっちゃいのは変わんないが、落ち着きというか妙な色気すら感じる。
これがフランス人の彼氏を持つリア充オーラというやつだろうか……。
静葉は、前会った時感じたものと同じものをまた纏っていた。
静葉は私と似ている気がする。
奈々に縛られている。
静葉と私の違いは静葉は、私のように逃げ出さず、受け入れーー。
いや、割り切らなければと私とは違う形で目を逸らそうとしているだけかもしれない。
改めてあった静葉から、私はそんな印象を受けた。
店内に4人で入り。注文をすると、早速静葉からもらった手紙を美咲と佐奈に見せる。
「……奈々ちゃん……」
「バカだな、奈々っちのやつ。本当、バカだよ……」
「遅くなっちゃったけどさ、まだ間に合うかな?」
「……」
「ねぇ? 静葉……」
「……わからない……」
ずっと黙っていた静葉がようやく口を開いた。
「でも……私はきっと、真央なら、真央なら、そう言ってくれるって心のどこかで期待していたのかも」
「静葉……」
「……正直、みんな、まだ奈々のことを諦め切れてないわよね? だからこそ、ここにいるみんな、真央からの連絡を受けて集まった、って、私は勝手に思ってるんだけど……。」
「佐奈は……奈々ちゃんにちゃんとお別れを言いたい」
「佐奈……」
「だって!! 奈々ちゃんはきっと! きっと!! 佐奈たちのこと今も待っていると思うから!!」
私も、佐奈が言った通りだと思った。
奈々は、きっとあの日からずっと……私たちを……。
「……明日と明後日……」
「えっ?」
「……その二日間なら、私、空いているけど……みんなは?」
「あたしも! あたしも!! 大丈夫!!!」
「佐奈も! 佐奈も大丈夫だよ!! 真央ちゃんは?」
「……行こう。奈々を迎えに……みんなで……」
「……決まりね。じゃあ、明日、改めて駅前に……集合」
「オッケー!」
「わかった!」
「うん……」
「それじゃ、私、仕事、戻るから……。」
「えっ? ごめんね。仕事なのに静葉……」
「いいのよ。来ることを選んだのは私だから」
「静葉! ……ありがとう」
「……私こそ、ありがとう。真央」
そう言って、静葉が店内を出て行く。
「あっ、佐奈も、そろそろ行かないと!」
「おっ? デート? 佐奈」
「帰国ついでに、日本の支店の調査頼まれてるの! ごめんね!! 美咲ちゃん! 真央ちゃん! 明日ね!!」
佐奈が急いで、ミルクティーを飲み干し元気な声で店内を出て行く。
「……真央っち」
「何?」
「なんか、あの頃みたいだね?」
「……そう、かも」
「さて! 暇人通し、買い物付き合ってもらうよ!」
「うぇっ!?」
「真央っち、素材は良いんだからそんな田舎の学生みたいな格好じゃなくてさ、後、メイク、教えてあげるからほら! 行くよ!!」
「ちょ、ちょっと!! 美咲!!!!」
美咲に連れられ、私はその日1日みっちりと大人の女として改造された。
「……疲れた。」
そのままベッドに倒れ込み、ゴロリと寝返りをうつ。
「少しだけ……少しだけ寝よ。起きてからの準備でもまだ、間に合う……」
目の前の左腕を、ギュっと抱きしめる。
「奈々……」
いつもは、すこしひんやりとした左腕がほんの少し温かいような気がした。
あの日、私と奈々はお互いの左腕を交換した。
実際、したのかどうかはわからない。
ただ、交換した直後から私の左腕はひんやりとしていた。
でも、そこに不思議と温もりを感じられて……
「奈々、待ってて……絶対、迎えに行くから。今度は、私たち4人で奈々を迎え入れるから……」
私たちは、奈々をきっかけに集まった。
今度は私たちが奈々を迎え入れる番だ。
奈々を必ず見つけよう……。
私は、そう心に強く強く決意し、目を閉じた。
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