第6話 8月28日……(真央)
奈々が私たちに別れを告げてすぐ、突然、学校からも姿を消した。
スタジオに、ゲームセンター、カラオケボックス。
奈々がいそうな場所には何度も足を運んだ。でも、奈々を見つけることは出来なかった。
そして、最後に私は何度も言ったはずだった奈々の家へと行ってみた。
会ってくれるかわからないけど、でもちゃんと話がしたい。
そう思って、奈々の家を目指し、その場所にたどり着く……でも、そこには……。
「なん、で?」
ついこの間まであった、時には、泊まったり、溜まり場だった、あの青い屋根が目印の奈々の家はそこに初めからなかったように更地になっていた。
「なん、で? 頭、おかしくなりそうなんだけど……。」
頭を抱え、その場に立ち尽くす。
「夢……? そんなはずない……。だって、私たちは……奈々はここにいる……」
携帯電話を取り出し、みんなで撮った写真を見つめる。
そこには、誰より眩しい笑顔を浮かべる奈々。
「奈々……どこ行っちゃったの?」
それから数日、私は宛もなく奈々の姿を探した。
でも、手がかりすら見つけることは出来なかった。
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「奈々に……縛られてる……か。」
何年も電源を入れていなかった携帯電話を起動させる。
懐かしの携帯会社のエンブレムと共に、画面が映し出される。
フォルダから、学生時代に撮った写真を眺める。
そのどれにも奈々が映っていた。
奈々は幻なんかじゃない……。
入学当時に私は奈々は友達になって……。
それから、美咲が、佐奈が、静葉が入って……。
私たちは5人であの夏を楽しく過ごしていた……。
夢なんかじゃない……。
部室に置きっぱなしになっていた奈々のギターが私の部屋で今か今かと持ち主の帰りを待っているみたいに見えた。
簡単にギターをかき鳴らしてみる。
全然上手くない……。
あの日、私たちはバラバラになった。
それから一度もバンドもダンスチームも再開することはなかった。
当たり前だ。
私たちは5人で一つ。
1人でもかけたら私たちじゃない……。
奈々の顔が頭に浮かぶ。
いつも、楽しそうにしていた奈々。
楽しいと言っていた奈々。
涙が溢れそうになった。
感情が生まれるなんて本当に久しぶりで……。
「……奈々ぁ……。」
奈々のギターを抱きしめ、声を殺して泣く。
押し込めていた感情が吹き出した。
気づけば、スマホを手に取っていた。
「どしたのー? 真央っち? いきなり電話してくるなんーー」
「奈々を!! 奈々を……迎えにいこ?」
「……」
「バカなこと言ってるのはわかってる!! でも、このままじゃダメな気がする!! 私たち!! このままじゃーー」
「真央っち……」
「私は、あの夏から何も変わってない。変えられなかった。大学に入っても、就職しても、ずっと、ずっと、心に開いた穴は開きっぱなしで、何も、何も感じられなくなってた。」
「……うん」
「怖かった。すごく……このまま、奈々のこと忘れるのかもって。忘れた方が良いのかもって……だから、私……。」
「真央!!」
美咲の声で、我に帰る。
「明日、佐奈とちょうど会うからその時ちゃんとまた話、聞かせて」
そうだ、伝えなきゃ。
静葉にもらった手紙の内容を、2人にも……。
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