第3話 8月19日……(真央)

「……」

「……」


 私のあの一言をきっかけに、美咲との間に気まずい空間が続いていた。


「……真央っちはさ……」


 先に、その静寂を破ったのは美咲だった。


「静葉と、今も連絡……取ってんの?」

「……ううん。私からみんなに連絡することはないかな。美咲が初めて」

「そうなんだ。あのさ、できれば佐奈には連絡してあげてよ。WINE後で教えるからさ。」

「WINE? なにそれ、よくわかんないんだけど」

「ぷっ! あははー!!」


 あたしのその一言を聞いて、美咲が吹き出した。


「そっ、そんなに大袈裟に笑わないでよ。恥ずかしいじゃん」

「メンゴ。メンゴ。なんか、真央っちらしいなって思ってさ〜ねっ、これ、覚えてる?」


 美咲が古びた、携帯電話を鞄から取り出してあたしに見せる。学生時代に美咲が使っていたものだと後ろの大量のあたしたちとのプリクラでわかった。


「あー……うん、あの時も、美咲に色々おしえてもらったんよね……」

「そうそう」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「うっそ! 真央っち、xixi知らないの!?」

「いや……そんな、驚くこと?」

「おっどろくよ〜!! ねっ、佐奈!」

「真央ちゃん、佐奈もね〜昨日、美咲ちゃんに教えてもらったの〜」

「そう、なんだ。静葉は……知るわけないか……」


 話を振ろうとして、読書に夢中になっている静葉が一瞬こちらを見て、興味ないと目で訴えた。


「うーん……xixiか……」


 横で話をただ聞いていた奈々が時折唸りながら、ぶつぶつと何か呟いていた。


「奈々?」

「宣伝、しよう」

「宣伝って、活動の宣伝?」

「おー!! いいねぇ! コミュ立ち上げて活動日誌みたいの書いちゃう?」

「活動日誌……楽しそう。 美咲、お願いしていい?」

「まっかせなさーい!!」


 奈々に頼まれるや否や、美咲がすごい速さで携帯電話をいじり始める


「今日、どっちやるの? 奈々」

「静葉、やる気充分」

「別に、そういうんじゃない。ただ、やるからには中途半端にしたくないだけ……」

「……みんな、これ、見て」


 奈々が、机に一冊のノートを開いて見せる。


「……これ、奈々一人で書いたの?」

「ふわぁ〜奈々ちゃんすごーい」

「こっちが、担当ごと。楽しかったよ。楽譜作り」


 奈々がパートごとに分けられた楽譜を配っていく。


 手書きとは思えないほど、丁寧でわかりやすくなっている楽譜に私はただ驚いた。


「奈々ちゃん……佐奈、ドラム買ってもらうのやっぱり難しいと思う」

「あたしも、ベース買うの実はお小遣いじゃ厳しくて……」

「……ピアノなら、家にあるけど。ただーー」

「じゃーん」

「……何?」


 唐突に、携帯を見せつけた奈々に戸惑いながらも、私たちがその画面に注目する。


「激安、スタジオ練習?」

「スタジオぉ!?」

「えっ、えっー!!!」

「本気? 奈々」


 スタジオ練習……プロの人たちが良くそういうことをしているというのは聞いたことがあるけど。


 まさか、私たちがそのスタジオという場所を使うなんて考えもしなかった。


「楽しそうじゃん? スタジオ練習」

「でも、奈々……スタジオって、高いんじゃーー」

「なんと、500円」

「やっす〜!!!」

「しゅわしゅわちゃん5個と同じなの!!」

「……どういうこと? 奈々」

「姉さんのスタジオ」

「姉さんって? えっ? 奈々の?」

「ただし、10-18時限定」

「いやいや、充分でしょ! いつもそれぐらいで帰るし!!」

「さらに、ドリンクバー付き」

「マジ〜! すっごく良いじゃん!!」

「スタジオ練習! 佐奈、すっごい楽しみ。」

「今日、さっそく、行く?」


 いくーという、美咲と佐奈が奈々を連れて勢いよく部室を飛び出す。


「……静葉?」

「すぐ、行く……先に行ってて真央」


 その時の静葉は複雑な表情をしていた。


 ただ、その日も私たちの楽しい放課後が始まる、そんな予感がしていた。

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